無双クロニクル夢
□小牧長久手の戦い 下
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――――それは、突然やってきた。
「馬鹿な!信雄どのが秀吉と単独講和をしただと!?」
半年にもわたる秀吉軍と、織田信雄・家康連合軍の戦いは講和により決着がついてしまった。
太陽は怒りを露に、軍議中にも関わらず立ち上がり柱を殴り付けた。
その怒りに稲姫は恐れて肩を震わせる。
「…落ち着け太陽。」
「ああ忠勝どの、落ち着いてはいる。こっちのが優勢だったってのに、これで俺たちは戦の大義名分を失った!兵を、引かざるをえなくなる…!」
「…仕方あるまい。」
「殿…!」
苛立つ太陽をよそに、家康は重いため息をついた。
「……一応は、天下に徳川の武を示せた。それだけでもよしとしよう。」
「秀吉は上洛し、殿にも臣従を望んできますよ?武を示せたって、それじゃなんの意味ももたない!」
「…皆まで言うな。太陽、今は耐えねばならぬ。」
家康がそう告げて黙ると、軍議は仕舞いになってしまった。
太陽は遠退いた徳川の世をただただ悔しがり、今後を考えつつ碁盤にひとりむかう。
さまざまな手を考えては打ち消し、悩み続けていると、ふと向かいに人の気配を感じて手を止めた。
「……稲か。」
「失礼します。」
「ああ。」
稲は部屋に入ると静かに太陽の向かいに座る。
「……今回の戦、俺は一度たりとも戦場に赴かなかった。まぁ優勢だったし、軍師の真似事しちまったからな。だが、俺は間違ってた。」
「そうでしょうか?戦はあなたのおかげで優勢だったようにおもえましたよ?」
「いいや、これぐらい、誰がやってもできた。俺は俺だけしかできない仕事があったはずだ…今回だって戦場に出ていれば、戦場の空気を読み、秀吉がどんな小細工をするか解っただろうに……俺は凄惨な戦場から逃げて、卓上で戦っちまった。」
「そんなことは…」
「もっと冷酷に、誰よりも貪欲に勝ちにこだわり手段を問わず、善悪を問わない。心を…冷たく持たねば…!」
「太陽…」
太陽は友・半兵衛の言葉を思い出す。
“心が死ぬ前に、戦場をすぐ離れろ”と。
「…殺してやる。己を。俺は、鬼になろう。」
その呟きに、稲姫は首をふる。
「そんなの…稲は望みません!」
「稲…」
「私はそのままのあなたがいい!人の死を痛み、苦しむあなたが…!」
「お前、なんだ急に?」