無双クロニクル夢

□小牧長久手の戦い 上
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行方を暗ましていた月が、突如として秀吉の元へ帰ってきた。


「久しぶり。あ、これお土産…餅。突きたて!」

ずい、と不躾に差し出される風呂敷のなかには餅にきな粉と黒蜜がかかった餅が入っている。
朝議の席から戸惑いや呆れといったざわめきがおきる。

「ぶ…っ!わっはっはっはっ!!」
「くく……ひひひッ!やめてくれよお前さんよぉーッ!!」

だが秀吉と、今やその次、もしくは同等の地位を持った利家が笑い転げる。
もともと尾張や美濃出身の織田家に使えていた武家達数人も笑うのを堪えていた。他の者はなんだか解らない。

「はははッ、はぁー…、お前さんは信長さまに仕えだした頃となぁーんもかわらんのぉ…。」
「え?信長さまのときはまんじゅうだったでしょ?今日は餅!しかもあつあつ突きてだよ?」
「は、腹痛ェ〜!!やめてくれよもお!月のせいで俺はよぉ、信長さまが饅頭食うたび笑うのを死ぬ気で堪えるはめになったんだぜ?!」
「?……よく解らんが、利家には饅頭買ってきた。ほれ。」

放り投げられる饅頭を受け取りながら利家は再び大爆笑をするのだった。

そんな利家はさておき、秀吉は沈んだ表情を見せる。

「…怪我はもおええんか?」
「うん。火傷がかなり残ったけど、まったく支障はない。」
「ほうかほうか!…して、また儂についてくれるんか?」

その問いに笑っていた利家も静かになる。
その場にいた重鎮達や若い秀吉由来の子飼いの将もみな押し黙る。

「……秀吉が正しき道を歩もうとするならば、手伝うよ。」
「ッ!!ほうかほうか!いやぁお前さんがおりゃあ一万力じゃ!!信長さまん時みたいに儂の友として、まぁ立場は食客みたいなもんでええ、これからも」

「…お待ちください。」

秀吉が月に抱きつきながら喜ぶなか、冷たい声が響く。
見れば三成が冷たく月を睨みつけていた。

「一度とはいえ秀吉さまの元を離れてるのです。なおかつ重要な役職をお付けにならないなら、また月殿はふらふらと蝶のように飛んでいくのでは?…なにより、月殿はまだ秀吉さまに忠誠すら誓っておりません。」
「三成…久しぶり。」
「ッ…ご挨拶は後程。今は、秀吉さまへの忠誠を」


「黙れ。」


いつも明るい秀吉の冷たい言葉が響く。


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