無双クロニクル夢

□賤ヶ岳の勝利
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―――いいの。

―――初めて自分で選べた道だから。

―――悲しくなんかない。

―――ただ、娘を。


―――茶茶を、守って?








「…お馬さん、して。」


落城から数日後。
市の長女、茶茶は市とよく似た声と容姿で様子を見に来た月に無表情でそう言い放った。
ぎょっとするまわりの侍女達と違って月はいいよ、と茶茶の前で四つんばいになる。

「…―――ッ」
「………?……どうした?」
「ッ!!……もうよいッ!!」
「茶茶…」
「触れるな!!」

立ち上がり差し出した月の手を払い除ける。
涙をこぼしながら鋭く睨む茶茶を、静かに月は見つめた。

「ッ…いままで私や…かあさまの言うことなんでも聞くのにっ!どうしてかあさまの傍にいてくれなかったの!?どぉして…っ!見殺しに――…う、うぅ…うーッ!!」

侍女が数名駆け寄り、茶茶を宥める。
月は少し押し黙ってから茶茶を抱き締めた。
茶茶が驚きに顔を上げると、月はいつもと同じようににこっと笑った。

「言い訳などない。憎かろう。気が晴れるなら、殺してくれ。」
「ッ…愚か者…っ!!涙ひとつ零さぬ、薄情者!鬼!悪童!」
「…うん。」

月の胸をなんども叩く茶茶に引き剥がそうか侍女も様子をうかがうが、月はそれを小さく手で征する。

「なんの言い訳も志もないかたわけめ!私に殺されるような者に…かあさまは…!謝れッ!!父上にも!かあさまにも!!」
「謝らないよ。乱世を終わらせるには秀吉の勝利が必要だった。ただ、……」

たんたんと語る月の瞳がにじむ。だが、すぐにいつもの無表情にもどし、茶茶を真っすぐ見つめた。

「……市が死んだのは、とても残念だ。」
「ッ…!……月さま…っ、かあさまのこと、好きだった、の?」

茶茶が震える手を月の頬にゆっくりのばす。その手を掴み、手のひらに唇を押しつけた。

「うん。市を嫌う者なんか想像つかないけど…みなも私も市がすきだった。私にとって一番たいせつな女だった。」
「っ……………なら、いいの。」

茶茶が抱きつく。その体を優しく包みかえす。

「あなたを許すわ…だから泣いてもいいのよ?」
「……なぜ?私にはその資格も、情もないのに。」

「やっぱり月さまは…子供みたい。」


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