無双クロニクル夢

□木津川口に鉄砲隊
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月は夜、眠りに付けずにいた。

半刻ほど馬を走らせ、城から離れた川場の岩に座り、月を眺める。
しばらくしてから岩から跳び退きながら刀を抜き、後ろの草むらを睨み付けた。

「…ヒュ〜♪カンがいいねぇ。」

林から男が現われる。
月はそれが見知った男であることに気付いた。

「雑賀衆…」
「孫市って、教えただろお嬢ちゃん。」
「なんでここに?敵領だよ。」
「もちろん偶然じゃない。俺の配下を忍ばせててね。お前が一人になる機会があったら知らせるようにした。焼き討ちで指揮をとったって噂を聞いてからずっと、お前を気にしてたんだよ。」

孫市は銃を背負ったままなので月も刀を鞘に収める。
雑賀衆は今や織田と敵対しており、以前信長の暗殺未遂が起きたときも、雑賀衆の仕業ではないかと言われていた。

「私に何用?」
「…お前、信長の愛妾になっちまったんだってなぁ。気に入られるためにひでぇ任務もこなして…辛かっただろ。」

月は無表情で孫市をみる。その瞳が澄み切っていて、まだ幼さが残る顔に、いやな大人びた感覚を呼び起こされ、孫市は眉をひそめた。

「本当に、信長の世がいいのかよ?あの残虐で悪人な信長に…これ以上すき勝手させられねぇのが解らないのか?」

孫市の言葉には怒りがこもる。それにもまったく月は動じない。

「かつて…名君と言われた信玄公は皆殺しにした敵国の姫を妾にした。同じく名君の謙信公は救けを求めた国が、呼んでおきながら降伏したのを責めて2千人を無駄に殺した。今孫市どのが手を組んでいる元就どのだって、まったく清廉潔白な身なの?」
「…なにがいいたい?」
「なにをもって悪人と言っているか教えてほしいだけだ。…私は乱世を無駄に引き伸ばす、弱小な力こそが悪だと思っている。」
「……意志や思想は必要ないってか?そりゃお前……なんて悲しい人間なんだ。」

孫市が月の前に立つ。大きな背に見下ろされて、その顔が悲しみにくれているのを不思議そうに眺めた。
武骨な孫市の指が月の白い頬にやさしく触れる。

「…触れりゃあこんなに温かいのによォ、心だけどうしてそんなに冷たいんだ?なぁ、俺がお前を変えてやるよ。俺のもとにこい。」
「…孫市どの……」



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