無双ビーエル

□月の酔いは
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月は人を狂わせるという。


「秀吉様、これにて。」


上機嫌な秀吉に、三成は退室の許しを得るため頭を下げる。
秀吉は女をはべらせながら酒をあおり続け、横にいた孫市などはもう酔い潰れている。

本日は十五夜。

仲間内の小さな宴だったので、知古の者や子飼いの将しか居ない。堅物の三成も秀吉が無礼講と言ったので、秀吉に馴々しく接する孫市や利家を許していた。


「おお?!三成、まだいけるじゃろ!」

「…秀吉様、御覧になられよ。すでに官兵衛殿と馬鹿則しか正気ではありません。みな潰れておられますよ。」


確かに見回せば泥酔している者や寝ている者が続出している。
大声で話しているのは正則で、官兵衛はそれを虫を見るかのごとく冷たい視線を返していた。


「わはは!そろそろお開きにするかの。」

「片付けを。秀吉様は寝所へ。」


三成が侍女達に指示して、秀吉が立ち上がろうとしたその時である。


「おっ!?…と!」


よろけた秀吉が三成に倒れかかる。三成は突然のことに驚き、受けとめながらも見事二人は転がった。
その音に官兵衛にからんでいた正則が気付き、駆け寄る。


「頭でっかち!テメーはひ弱なんだから俺がつれてってやる!」


秀吉の腕をつかみ、肩をかすと正則はえばりながら連れていく。
秀吉はすまんのー、と謝りつつ歩きだした。


「では明かりを。」


夜の廊下は暗い。
三成は蝋燭の明かりを持ちながら、二人の先を歩いた。
ぎしぎしと音をたてて人気のない、まっすぐな廊下を歩く。
ふと、正則は三成の上掛けからなにかはみ出ているのを見つけた。

(…毛皮、か?)

それに空いている手をのばし、触れる。


「…オイ、頭でっかち、これ――」

「ぅ、わッ!!?」


三成が大声をあげることは少ない。
正則がぐい、とそれをつかんだ瞬間、三成はびくりと肩を揺らし、廊下に蹲った。
驚いて正則はそれ、つまり毛皮のようなものをつかんだまま固まる。秀吉も驚いて三成を見た。


「……三成、なんじゃ、その………しっぽ?」


秀吉の前にいる男にしては小さな背に、ゆらゆらと大きな尻尾が九つ、ゆれている。その内の一つをつかんだまま、正則は頭を指差した。


「おま…耳か?!」


三成の頭にはふわふわの犬のような耳がある。


「ねこ?」

「狐だ馬鹿者ッ!」



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