無双クロニクル夢

□三方ヶ原の戦い
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「…出陣だ。」

忠勝が太陽に告げると、太陽は銃を背負いながらため息をついた。

「三河武士は強い。それは周知のことだが、意外と家康殿も青いねぇ。」
「このまま黙って通す訳にもいくまい。」
「…一言坂での惨敗は忘れたか?浜松城で籠城が一番よ。通り過ぎるなら、挑発して誘い込めばよかろう。」

忠勝ににらまれ、太陽はやれやれと、肩をすくめて馬に跨る。

「…まぁ、忠勝殿は殿をお守りください。俺は三河の、殿の意地を武田にお見せしよう。」


いつも通り自信に満ちた太陽だったが、こたびの戦は違った。
信玄の抜け目のない策に、何度も窮地に陥り、なおかつ味方を満足に守ることさえできなかった。


辛辣を極めた戦のあと、命からがら逃げ延びた家康は太陽にふらふらと近づいて嘆く。

「わしは、進まねばならん。」

家康の瞳は、涙で濡れていたが、しっかりと前を見据えていた。
その背を見送り、太陽は拳を握り締める。

「…進んだ先に、守るべき者がいなけりゃ意味ないって…半兵衛に言ったばかりだったのにな。」

この悔しさを、無力さを、太陽は胸に刻んで唇を噛んだ。





「島どの、敵武将にいい目をした者がいましたね!」
「ああ、太陽だろ?結構有名な金で動く傭兵だったが…徳川の家臣になったってのは本当だったんだな。」
「お強い方でした。刀を受けた手が、まだ痺れております。」
「その割りにはうれしそうだな幸村。」

左近の隣にいる赤い鎧の幸村は、先程の戦にいた太陽を気に入ったようで、興奮気味に話す。

「あ…信玄公、そういえば月は織田家に仕官したらしいですよ!」
「……うーむ、てっきり儂に惚れてると思ったんだがのォ。」

前を行く信玄に左近の馬を追い付かせて言うと、幸村もそれに合わせた。

「月…?おなごのような名ですね。」
「ははは、おなごじゃよ。餅や菓子好きの子供だ。」
「おなごで仕官?誰ぞ武士のお子ですか?」
「いやいや、武功をたてたただの民だ。前に武田に来たことがあってね、俺も信玄公も可愛がったんだが、上杉に攫われたかと思えば織田に仕官したって噂で聞いて残念だ、ってね。」
「…世にはまだ私の知らない強き武士がおるのですね。」

幸村が瞳を輝かせながら言ったのを見て、左近はやれやれと肩をすくめた。


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