無双ビーエル

□花火と恋
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三成が笑わなくなってしまった。


三成の携帯の待受は、俺が写メで送ったサッカーの試合後にグラウンドから見えた虹だった。
送った時にはそっけなく、虹だな、とだけかえってきたのに、あとで携帯を見て微笑む三成が珍しくて、何かとのぞき見たら待受の虹を見て笑っていた。
とても嬉しくて、俺もすぐに自分の携帯の待受にした。

もともとよく笑う奴ではないのだが、綺麗な景色とか、キラキラした物とかを見ると必ず顔をほころばせた。

そんなかすかな笑顔さえ、見ていない。
笑顔どころか泣き顔ばかりだ。

この間の雨の日なんか、駅のホームでいきなり泣いて帰りたくないと言われた。
いつも、雨が降れば三成が傘を持っていようがいまいが、可能なら必ず駅に迎えに行って、俺を見つけた三成は子供みたいに笑って駆け寄るのに。

『なんで…なんでそんなこと言う?』
『…っ……』
『俺たちの家だろ?他に、どこにかえる?施設だって、もうないんだろ?!』
『ぅ、…ぅう…っ…ひっ、ひっく…!』

俺と正則は遠縁だが一応、おねねさま達の親戚でもある。だが三成は、違った。
小さな施設で育ち、そこから秀吉さまが一番優秀だと、選んで連れてきた。

そうだ、こいつに帰るところなんかない。
それなのに、帰りたくないなんて言う三成が許せなくて、俺は初めて三成を叩いた。
頬を、思い切り。

『っ……!』

何人かがこちらを見たが、歩みを止める奴さえいない。
三成は叩かれた頬に手をやり、必死に声をこらえる。無理に呼吸を整えようとして喉がひゅ、と妙な音をさせた。

『…帰るぞ。』
『………あ、あ。』

手をひけばついてくる。が、少しして三成は俺の手を振り払った。
本当はその小さな手を握ったまま、来月の花火大会に行こうと言うつもりだった。
約束なんかしなくても毎年一緒に行っているが、あえて誘って、三成が笑って頷くのが見たかった。
三成は花火も好きだから、話題だけでも喜ぶかと思ったんだ。

『………ッ…』

俯いたまま歩く三成から雨音にまぎれて、かすかに泣き声が聞こえた。

俺は、悲しくなったし、とても腹が立った。

どうやったら、三成は笑うのだろうか。


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