無双ビーエル

□ハンカチと傘
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いつのまにか電車は動いていたようで、男から視線を外し、車窓から外を見る。
雨が窓を叩きつけていてとてもうるさいのに、少しうとうとしてくる。
最近、ろくに眠れない。
家でも心休まらないし、学校も隙を見せれない。
好き勝手に男三人に体を弄ばれていれば、当然体力的にもきつい。

どうしてこんなことになってしまったのだろう。
少し前は普通の家族に、気の許せる友人だったのに。
もう、限界だ。




「…――ねぇ、アンタ。」

低いのにやけに色気のある心地のいい声に呼び掛けられて、目をあける。
至近距離に黒い髪が見えて、だんだんと目がさえると、不適に笑う口元が見えた。

「え…?」
「気持ち良さそうなとこ悪いが、降りる駅はどこですかな?通り過ぎたら可愛そうだと思って。」

見れば男に完全に寄り掛かって寝ていたようで、慌てて離れる。
頬に涙が流れていたことに気付き、思わず立ち上がってしまった。

「あ、っと…え?」

耳に車内アナウンスが聞こえる。ちょうど着いたようだった。

「ここだ!…め、迷惑をかけた。申し訳ない!」

お礼もそこそこに、慌ただしく電車から降りると、男はにこにこと車内から手を振っている。
それに深々と頭を下げて真っ赤になった顔をあげた頃にはもう駅のホームを電車が出ていた。

「……―ありえぬ失態だ。」

先程の自分を殴り飛ばしたい。
あんなに全体重をかけたようにもたれかかられたら、さぞ肩が疲れただろう。
それより何より、泣きながら寝るなんて、赤子ではないか。

涙を袖で拭って、自動改札を抜けると、傘を持って学ラン姿の清正がぼーっとつっ立っていた。女子高生がそれを遠巻きに見て騒いでいる。

前は、とてもうれしくて、駆け寄って、帰りにコンビニでおやつを買ってあげたりして。
今は、清正を見ただけで足がすくむ。

おもわず蹲って泣きだした。清正は俺にまだ気付かない。携帯が鳴る。清正からだ。ここにいるのに、見つけられたくない。

「……たすけて」

誰に?
三人以外と、束縛されていて、話すことさえできないのに。


そういえば、久しぶりに見知らぬ男にだが、さっき笑った。


「…三成?」

蹲る俺をやっと見つけた清正は、泣く俺に眉間にしわをよせた。


「……帰りたくない。」


眉間のしわが深くなる。


だってもう、限界だ。



END

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