無双ビーエル

□寂しく幸せな海
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白い砂浜が熱くて恐々歩いていると、急に左近が荷物みたいに担いでくる。おろせとじたばたすれば尻を撫でられて仕方なしに大人しくする。
波際に下ろされて、濡れた砂浜の感覚に少し感動した。
空も高くて青くて、海との境目が見えない。なんて。

「……きれい」
「お?素直なコメントですか。」

笑いだす左近にかまわず歩きだす。冷たい海に足首まで入る。

「あまり遠くにいかれますな…」
「ああ。」

左近はうきわに空気を入れる作業をする。
俺はそのまま海に入った。

何だか、いろんなことがあったのに、すべて嘘みたいだ。

(……にぃさん。)

一人で食べるご飯は味気なくて、でも左近と食べればとても美味しい。
美しいものを、美しいと思えるのが、とても嬉しくて、すこし罪悪感があった。

(まだ寂しいよ…にぃさんと一緒に行った海も、綺麗だった…綺麗だったんだ。)

潤みだす涙腺に叱咤して、先に進む。急に足がつなかくなり、少し海水を飲んでしまった。しょっぱい。
太い腕に腰をつかまれて、海面から上げられると特大の浮き輪に乗っけられた。

「左近…」
「だから遠くにいくなって…眼に入りましたか?涙が。」

頬を舌でなでられて、たくましい左近の首に抱きつく。バランスを崩した浮き輪を慌てて押さえる左近にお構いなしに、艶やかな黒髪をつかんだ。

「どうしました?…三成さん?」
「左近、海が、きれいだ。」
「………ええ。まぁ、三成さんのがきれいですよ?」

背中をあやすように撫でられて、その心地よさにうっとりしながら左近の体の日焼け止めの香りに目眩がした。

「あまり冷やさないように日の光もあびてくださいね?三成さん…?」
「左近、俺いま、にいさんと暮してたときみたいに幸せだ……それが、怖い。」

愛しいものや美しいものはすぐに消えてしまう。
まるで虹みたいだ。輪郭が朧で、離れてみないと解らないなんて。

「大丈夫ですよ。また来年きましょう。再来年も、三成さんが一緒に来てくれるなら、ね?左近も海も、消えたりしませんよ。」

確証なんかないのに、その笑顔がとても頼もしくて、安心してしまう。

「ああ、そうだな。」

前向きになった心が、左近で満たされる。
これは、いいことなのだ。
そう何度も繰り返して、笑った。


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