無双クロニクル夢

□姉川のなみだ
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「兄は幼き頃母に殺されかけました…愛はなく、情もないのです。」
「……そうでしょうか。」

月は上洛の際に己のせいで起きた問題の尻拭いを信長にさせ、それについての罰として、夜伽を命じられたことを思い出していた。



『……信長さま、月です。』
『…入れ。』

ゆったりと座り酒を飲む信長の前に立ち、月は一枚しか着ていない服の腰帯を取り、その場ですぐ全裸になった。無表情に信長を見つめて、近づく。

『……お蘭に、作法は習ったか?』
『いえ。私は蘭丸と作りが違います。』
『違わぬ。そなたは武人であり、信長のお気に入りよ。それだけで、他は価値なし。』

信長が肩にかけていた派手な桔梗の柄の着物を、月に巻いて、その体を抱き上げると寝所へ移る。布団に下ろされ、月は鼓動が狂ったかのように激しく脈打つ。それなのに顔色は真っ白だった。その体を下にして信長は見下ろす。

『お濃より色香もなく、お蘭より気品もない。つまらぬ子供の体よ。だが、眼はいい。』
『…あ、』
『乱世に咲く、狂気の花よ。その無垢な眼で、何をみる?』

指で頬を撫でられ、ゆったりと口付けられる。覚悟を決めて体の力を抜くと、信長はくつくつと笑った。

『…生娘が、気取ったことをする。嫌なら言うてみよ。』
『嫌では、ないです。ただ、私では信長さまも満足されぬのではと。』
『で、あるか。』
『私は濃姫のようにも蘭丸のようにもなれませぬ。ましてや信長さま最愛の、市のようにも…。』
『…ふ。』

市の名を出すと信長はとたんに瞳に狂気を宿す。月は動じずに非難をこめて見つめ返した。

『…市が嫁いでからできたにしては、早すぎる。』
『え?』
『茶茶は信長の子よ。信長は、市とは従妹にあたる。兄妹ではない。』
『!……だからといって、無理強いはいけませぬ。』
『市しか余を無条件で受け入れぬ。また余も、市を無条件で受け入れた………それから裏切ったのは、市のほう、ぞ。』
『ぐ…!』

細い首を絞められて、呻く。目の前がちかちかしたところでやっと指をはずし、月はむせて咳き込んだ。

『けほ…っ…信長さまは、あなたの闇は深すぎる……市が眩しいだけです…』
『…まだ言うか。』
『私が、信長さまの、闇となりましょう…私にその闇を、共有させてくださいませ。』


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