無双ビーエル

□動物園の子供たち
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兄はとてもとても優しくて、頭がよかった。

顔も整っていて、他人からの評価も高いが、なにより俺は内面を反映したように美しく繊細なその顔がとても好みだった。


歳はかなり離れていたけど、その分よく可愛がってくれ、暇を見つけてはいろんな場所へ出掛け、いろんなものを見せてくれた。


そんな兄が大好きで、血の繋がりはないけど、本当の兄弟だと思っていた。




「吉にぃ……」




ある日、病気がちな兄をよく看病してくれていた恋人と結婚が決まった。

少し淋しくはあったけど、とても嬉しかったのを覚えている。

その人も優しく綺麗な人で、新婚なのに俺が居ていいのか聞いたら、あとでこっそり兄のいないところで、俺に家庭の温かさを教えてあげたいから母親になるつもりで結婚してくれとプロポーズされたのだと教えてくれた。
だから甘えないと駄目よ、と。そんな義姉を、どうして嫌えようか。




「…義姉さん…」




新婚旅行は兄が学生時代に留学していたアメリカだった。仕事の取引があるようで、仕事のついでだと言っていたが、二人でどこにも行ったことがなかったのだから、俺は新婚旅行だと気をきかせて誘われても絶対首をたてに振らなかった。


外務省から電話があったのはすぐだった。

現地で死体検案書と在外交館発行の遺体証明書を発行してもらい、未成年ということもあり外務館がほとんど処理してくれた。ちなみに義姉も天涯孤独な人だったのだ。

交通事故だった。

渡米する予定だったが、遺体は損傷が激しすぎてみない方がいいと何度も言われ、在外交館の職員が手続きをし、飛行機には乗せられないと言われ、現地で荼毘に付した。
さらに在外交館が小さくなった二人を抱え、日本まで運んでくれた。

兄達の部屋を探ったが、不思議なことに、連絡先は何一つ出てこなかった。
秀吉さまや他の兄弟ともまったく解らない。
おそらく、兄も連絡をとっていなかったのだろう。


そして俺には現地で荼毘にした時の額と、現地の事故の損害賠償の保険の上限を越えてしまった額がのこってしまった。

それがわかったのは二人を兄のすでになくなっている生みの親の墓にそっと納めたあと、自宅が差し押えられ、いかにもな借金取りが来てからだった。




「…俺を、独りにしないで…」





■動物園の子供たち■



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