無双クロニクル夢

□金ケ崎撤退戦 下
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篝火が焚かれる本陣の信長の横に、めずらしく前線にも出ず、月は腕組をして静かに仁王立ちしていた。

朝倉との戦は上々。勝ちまであと一歩と迫っていた。


「朝倉…このまま絶える、か。惰性を貪るだけの名家など、無価値。のぉ月。」
「…はい。」

近くにいた光秀と秀吉は月をなんとも複雑な表情で見た。
城内では月が信長のご寵愛を受けていると誠しやかに噂されており、今ここにいることがそれを肯定しているかのようでならない。

「武功を立てているのに…あんな子供を…」
「光秀…まだそうとは決まってにゃーで。噂の元は、前々から月を煙たがっていた奴らだ。」
「ならよいのですが…ん?」

陣が騒つき、目を向ければ浅井に嫁いだ市と共に織田から移った近従が信長に何か渡している。
駆け寄ってみると、それは小さな布にあずきを詰めたもので、両端が紐で結ばれていた。

「フ…フハハハハ!浅井、抗う、か。」
「どういうこっちゃ?」
「浅井の裏切りです。あずきは我らのこと。浅井と朝倉に挟まれて身動きがとれなくなるということをお市様がお教えくださったのです。」
「じゃが、勝ちは目の前だぞ!」

ざわつく陣中を信長は冷静にみて、即座に命じた。

「月、余の馬を!全軍退却!!」
「…はっ!」

持ってきた馬に跨り、駈ける。慌てて月と利家が続き、松永や他数名があとから駈ける。

「ぎゃー信長さま!そんな単騎で…!!」
「いや、少ないほうが目立たず抜けられるかもしれません。我々は殿軍となり、皆を早く撤退させましょう!そこの者、徳川軍に使いを!柴田殿と丹羽殿にも早く伝えるのです!!」
「はっ!」

いくら軍が大きくても挟み撃ちにされればほぼ勝ち目はない。
撤退戦は死人が多い。戦うより逃げるほうが大軍はむいてないのだ。秀吉と光秀は己を奮い立たせるように叫ぶ。

「進軍だ!!我が軍は殿軍となろうぞ!!…武勇をしめせ!」
「共に死地を生き残らん!一人でも多く倒されよ!!」






月は信長よりわずか先に馬を走らせ、警戒を緩めず進む。横に地理の強い松永がならび、道案内をしてくれた。

「…京までどれぐらいで着きますか?」
「休まずで三日…いや二日で着かせてみせます!」


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