無双ビーエル
□月見酒
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こいつの前だとすぐ不安になる。
好みはこれでいいのか、嫌いなものはなんなのか。
俺はちゃんと愛せているのか。
愛されているのか。
「どうした氏康。」
「あー?べつに…なぁ今日も月がきれいだな。」
「うむ。」
縁側で月をつまみに酒を飲みながらつぶやけば、謙信は急に畳まで移動すると袈裟を脱いで俺にのしかかってきた。
「もう酒はいいのか?」
「よい。」
頬を撫でられて口付けられる。
謙信は有名な男色家だ。最近では与六とかいうたいそう戦で武功をたてた鬼神のごときご恋童がいるらしい。
口付けるだけでいっこうに続きをしない謙信に少し苛立って聞いてみる。
「…謙信、酔って立たねぇか。」
「その気がないくせに、よく言う。」
「あ?なんだよそれ…」
「よい。このまま眠れ氏康。」
ああそうだ。そいつの他に俺の息子をこいつにくれてやったら、ずいぶんと可愛がっているようだった。
文にはいつも謙信に何をもらっただの何処へ連れていってもらっただの。美しいと、いわれただの書かれている。
「お前は美しい。」
「あ?」
「美しく、哀しい男だ。謙信を気に掛けるな。」
「なんだそれ…意味わかんねぇな。」
「…氏康の、好きにふるまえ。謙信は何があっても、お前を嫌いにはならぬ。」
そんなこと、わかるもんか。
あたたかい指が頬をなでる。眼差しで愛が語れるなら、その優しい目は俺をどうとらえている。
「…謙信、俺はお前を愛せているか?」
「…」
「俺は、愛されてるのか…お前に?」
「……その不安がゆえに謙信を追い求めているのならば、答えは伏せよう。」
「チッ…いやな野郎だぜ。」
謙信に背を向ければ後ろから抱き締められる。
その子供のような体温につい笑ってしまう。軍神なんて呼ばれているくせに。
敵の、くせに。
「…見よ氏康、月がきれいだぞ。」
お互いに愛してると言い合ってるのにも気付かず、俺と謙信は幸せの中ゆっくりと眠りにつくのだった。
END