無双クロニクル夢

□市のはつ恋
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夜になり、部屋にもどると隣室の市が声をかけてくる。

「月、入っても?」
「市?…どうぞ。」

市は寝巻のような薄い生地の着物に、寒いのか上掛けを羽織り、月のとなりに座る。そのまま月によりかかってきた。

「…」
「…」

何も言わない市の肩を、ゆっくりと撫でてみる。戦国一の美女と名高い市が、万が一男にこのような姿をみせたら大変なことになるな、と苦笑いを浮かべた。

「なにも聞かないのですね。」
「言いたくなったら、いつでも聞くけど…」
「はい。あの、月は好いている殿方はおりますか?」
「………いや?」
「そ、そうですよね…」
「……いるの?」
「………はい。」

市は顔を真っ赤にして月を、熱っぽく見つめると、うるうると瞳を濡らす。

「以前はその方のもとへ嫁ぐ話もあったのですが…兄上に近々違う殿方、浅井長政どのに嫁げと言われて…」
「浅井…優秀な若殿って聞いたことあります。信長さまと並ぶほど美男子らしいですよ。」
「……はい、兄上が選んだのですから、良い方だとは思っております。それに悩んだとしても、嫁ぐことを拒否など織田家の為に絶対にしません。」
「……まぁ、会ったこともない方より、近くの好いた家臣のがいいのは解ります。」
「え?!どうして家臣の勝家と解るのです?!」
「え?」
「え?………きゃーッ!!」
「「くせものッ!!」」
「って!…うわぁっ!!」

市の叫び声で廊下にいた見張りが二人勢い良く入って攻撃をしかけてきたのを市を抱えてかわす。
誤解を解いて帰ってもらい、とりあえず落ち着こうと茶を飲む。

「っ…はーっ、びっくりした。」
「勝家は………違うんです勝家は、一番信頼できるし、不器用だけど…優しくて……私、たぶん父親みたいに、すきなのかも…」

ぽろぽろと市の瞳から涙が落ちる。それがとってもきれいだと思った。思わず抱き締めた。そのままでいると、市は余計に泣きだしてしまった。

「…これが恋だったら、どうしよう。終わらせ方が解らない。」
「いいんじゃない?たぶん、市は長政も愛せるよ。市は慈悲深いから。」
「ありがとう。今だけ…」
「うん。あのさ、いつでもいいよ。市が俯きたくなったらよんでよ。前を向けなくなったら」

市は頷いて、また少し泣いてから、笑った。
その顔はやっぱり美しかった。


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