無双ビーエル

□砂の手紙
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手を。

振り払ったのは俺だったけれど、先に俺に差し伸べなくなったのは、お前じゃないか。

お前からの好意はいつだって不透明で不鮮明だったから、砂を掴むようで。
確かにこの手のひらにあったと思っていたのに、開いてみれば一粒も残っていなかった。


「……三成の字、か?」


川原に曝された奴の首には、たいそう見物人が蟻のようにたかって囲み、皆が見たそうだ。
正則はそれを見て何を思っただろうか。清々した、などと思ってはいないようだった。

不思議なことに、あんなにも執着して固執してきた三成が死んでも、俺は涙ひとつこぼさなかった。
曝された首を見なかったからか、いまいち三成が死んだことに実感が沸いてなかったのが正解だろう。

ただなんとなく、馬鹿な奴、とか。
吉継と島左近や一緒に川原に曝された連中を羨ましくは感じていたが…。

俺の刀を手入れする道具箱に手紙が入っていたのを見つけたのは、奴の首が曝されて、二年後のことだった。
清正へ、と宛名だけ表に書かれ、名前もなかったが、紛れもなく三成の字だと解る。
不思議なのは、この道具箱はもう使っていない。なぜなら三成が新しいのを生前に、俺にくれたのだから。奴もそれを知っていたはずなのに、読まれないとはおもわなかったのかあの馬鹿は。
なんとなく、照れ臭かったんではないか。なんとなくだが、たぶん、当たっている。三成のこういう捻くれたところは俺が一番よく知っていたと思う。

開こうか、迷う。

そもそもいったいいつこんなものを書いて忍ばせたのだ。
三成のことだ、どうせろくなことは書かれていないだろう。

もしも。

もしも関ケ原の前ならば、しおらしいことでもかかれていたのではないか。
好意の一つでも、俺に残してくれたのでは?
いや、それはないか。
奴が誰かに宛てた手紙のように、あの世で秀吉さまに会うのが楽しみだとか、そんな感じの文のがまだ解る。

結局その日はそのまま開かずに、手紙はしまっておいた。

翌日、庭先で弓の稽古を簡単にしていたら不注意で爪を割ってしまった。
世は鉄砲の時代なれど、弓練は心を落ち着かせるのによいと思ってたまにやっている。

落ち着かせる?

昨日はほぼ三成の手紙の内容を考えていて、眠れなかった。
心がこれ以上ない程に騒つくのだ。かつて初めて奴に接吻した時のように、眠れない。


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