無双ビーエル
□砂の手紙
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それは音もなく床に落ちた。
三成の綺麗な髪が、ひとたば。
白い紐で結ばれたあの夕日色の髪が、音もなく。
「……………あ。」
三成は、死んでいたのだ。
記憶のなかの三成は、三成であって、そうではない。
すべてではないし、一部でもない。
もちろん傍になんて、もう一生、あらわれない。
どんなに楽しくても三成の笑顔は見れないし、殺したくなるほどの嫌味も聞けない。
華奢な体の熱い体温も。
潤んだ瞳も。
美しいお前の髪だって、こんなにも色褪せているではないか!
俺の髪を撫でてはくれないし、たくましい体も羨ましそうに見てもくれない。
俺の瞳がお前をうつして、その視線に困ったように笑ったその顔を、飽きることなく見ていた時だってあったのに。
腕のなかに押し込めて、夜が明けてもそばを離れたがらない俺に、かすかに嬉しそうに腕を回してきたその名残さえ、もうないというのか。
砂だ。
全部全部、こぼれてしまう。
「…ぁ…ああああああ……ッ!!!」
三成、あいしてるって、俺に言わせてもくれない。
いらなかったんだ。
お前の愛情なんて、そこにいて俺のお前へのどろどろな執着を、見てくれれば、生きていてくれれば、たった一握りのお前を、俺に。
なぜ一緒に死んだ奴らが羨ましかったのか解る。
三成のいないこの世は、意味をなさないからなんだ。
俺はお前を、愛してたんだ。
翌日馬を走らせ、三成が曝された河原に行った。
辺りはすでにどっぷり日がくれていて、俺はたどりついたはいいが、これからどのように生きればいいのかまったく検討もつかなくて、途方にくれていた。
胸に、三成の一部だった髪しか、たしかなものがなかった。
ほんとうにほんとうに、俺は途方にくれて、夜の河原をずっと、眺めるしかできない。
だんだんと恐ろしい考えが浮かぶ。
もしかしたら、お前のいないこの世の夜明けを、明日も明後日も何年、何十年も、すごしていかなけりゃいけないのか?
「…朝が…、おそろしいんだ、三成……」
頼むから今すぐ俺をさらってくれ。
END