無双ビーエル

□砂の手紙
2ページ/3ページ



爪の手当てをしてからまた三成の手紙を眺めていた。

そこまで気になるなら見てしまえばいいだけだが、だんだんとこの内容を、開く前に当てなければいけない気がしてならなかった。
内容を見て、ほらお前はこんなことを書いてた、お見通しなんだよ、と言ってやりたい。

その為に、俺は何度も三成という男の、おぼろげながらも輪郭を、思い出しては肯定したり否定したりを繰り返していた。

はじめこそ手紙を見なければ考えていなかったが、だんだんと常に考えだして、とうとう食事をしながらこの魚はよく食べていたとか、他人と話していても三成ならこう言っただろうな、などと自然に考えるようになってきて、ふた月もすれば、その生活になれてきてしまった。


朝、服を着替える時に珍しい色の服を着た。
薄い桜色の朱が入った白地の着物に、家臣の一人が似合いますねと言ったのが嬉しかった。
あんなふざけた色を着た三成がいつも美しく見えたのだから、俺も着てみたくなったのだ。どうだ、にあうだろうと問えば、まるで祭りにはしゃぐ稚児のようなのだよ、と。じゃあお前はなんなのだ。

久方に宗茂が屋敷を尋ねてきた。

「清正、ずいぶんとご機嫌じゃないか…何かあったか?」
「別に。家康の動きにはほとほと苦心しているがな。」
「そうか。いや、すまなかった、言葉を間違えた。ご機嫌というよりかは不機嫌なりに、機嫌がよさそうだ。」
「宗茂、お前はよく解らぬことを言う。」

冷たく睨むと、宗茂はさらに驚いた顔をみせた。
それから奴にしてはめずらしく真面目に、まだ酒も飲んでないというのに一言残してすぐかえってしまった。

「お前、まるで三成のようだぞ。」


なにを言っている、クズめ。

宗茂の言葉で、手紙のことを思い出した。
一人月を見ながら酒をあおって、久々に手紙を取り出して置いた。
見つけてから半年もたってしまったが、俺はここに何が書いてあるかやはり検討もつかない。

だが、もういい。
もういいのだ。
何が書いてあっても俺は驚かないし、俺の中の三成はすでにはっきりと輪郭をなし、ずっと傍にいるのだから。
むしろ三成の新たな一面を見て、より俺の中の三成は濃さを増すのではないか!

これを見つけた時より考えられない程の高揚感と期待で、子供のように心臓が高鳴った。
楽しみで仕方ない。

そっと、折られた紙を開いた。


次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ