無双クロニクル夢

□再びの川中島
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月は甲斐に続く街道を抜け、宿場町につくと馬をあずけて腹拵えしようと飯場を訪れた。
賑わいを見せる店内の端で、出てきたご飯を静かに食べていると合い向かいの席に謙信公に負けるとも劣らずな大男がドカリと座る。

「おやおやぁ〜?アンタ、どこかで見た顔だねぇ…。」

心地よい低音の声色に首を傾げながら見れば、まったく覚えのない男だったので、月は知らぬ、と答えて好物の佃煮に箸をのばす。

「ちょっと、アンタ無視しないでくださいよ!先の川中島でご活躍でしたよね?信玄公の横で…上杉の人間じゃなかったのかィ?」
「詮索の前に名乗っていただかないと、答えないよ。」

つん、とそっぽを向く月に、男はそれもそうだ、と笑った。

「俺は島左近、今は武田に身を寄せている。もちろん、川中島も参戦してましたよ。」
「…月。諸国をまわって修業をしている。」
「へぇー…可憐な花をも咲かす前の無垢な蕾みたいな顔をして、やるじゃないですか。戦の匂いに敏感なんですね。頭のいい子だ。」

子供扱いはあまり好まないが、左近よりは幼いことは確かなので反論はしない。
やがて左近も膳が運ばれてきて、食べだす。

「また川中島で大きな戦がある。四度目の戦いだ。こんどこそ、白黒つけたいもんだねぇ。」
「…なんだか楽しそう。」
「楽しい?…楽しいとは違う、昂揚しているんだよ。信玄公の軍略は天下一だが、謙信の軍略は神掛かってる。神に戦いを挑めるのなんか、いくら北条や織田が強くったって信玄公以外いやしない。その二人の対決が間近で見れるなんて、そうそうない!」
「…なら上杉か武田が天下を統べるのか?」
「天下?どうだろうね。信玄公ならいざ知らず、謙信は出家して何度か俗世を捨てたと聞いたことがある。天下どころか領土欲がない。」
「そうそう。謙信の闘争は“世に正しきを示す為”だけに行われているんじゃよ。」

「「ん?」」

突然月の隣の席のおじさんが話にくわわり、二人して驚いてみる。左近はさらに絶叫でもあげそうな程驚いて指をさした。

「しっ「こらこら、ワシお忍びで来てるんじゃから、騒ぐでないよ。」

何とか口を押さえて左近はまわりを見回す。

「側近だれもつけてないんですか?!」
「だってお忍びだよ?ほらお嬢ちゃん、ワシのおごりだ甘味も食べなさい。」


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