無双クロニクル夢

□織田軍桶狭間にて
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「にんげんごじゅうねん…下天の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり、一度生を得て滅せぬ者のあるべきか…」


『敦盛』を舞う信長の横にしどけなく座る濃姫と目があった。
今川三万の軍が押し寄せる中、信長に焦る気配はない。
見張りをかねて一室の端に座る月にやがて濃姫が近づくと妖艶な笑みをもって手を差し伸べられる。

「…貴方ね、女武者の傭兵は。立ちなさい。」
「はっ。」

濃姫の手を掴み立ち上がるとそのまま抱き締められる。香の甘いにおいにくらくらしながら何事かと目を瞬かせると、腰を後ろから前へ紐を回された。立派なベルトをつけられて、あどけない顔を向ければ、濃姫は満足そうに笑う。

「これは?」
「よい腰紐でしょ?私に作らせたのだけど、見ていたら貴方のが似合いそうだから…」

くすくす笑う濃姫に礼を言うと広間はざわめきを見せる。

「貝もて!具足もて!」

信長の号令に従い月も刀を持ち駆け出す。それを眺めて濃姫は手を振った。

「…あの人の為に、戦いなさい。」

それは信長の安否を気にしているかのような頼りなさを含んでいた。

信長の突然の号令に間に合ったのは数騎で、側近の池田が信長に待つよう進言し、ようやく信長の馬は歩みを止めた。

「……余についてこれぬは、愚鈍よ。のぉ、月?」

突然話し掛けられて月は否定も肯定もせずににこっと笑った。
信長はたいそうな美丈夫で、冷たい眼光を向けられれば皆立ち所に目を伏せる。だが月は笑いかえすのだから信長はその反応に満足した。

「…今川3万の兵に奇襲をたった五騎でかけますか?」
「さすがに、無謀よ。しばし待つ。月よ、恐ろしいか?わが織田は、勝てると思うか?」
「さぁ。ですが信長公を見ていると、不思議と負けると思えません…あなたは何が見えてるのですか?」
「信長が定する、世…乱世の先に、我が世はなし。乱世こそ苛烈に進み、信長が破滅に導く。」
「それは乱世は燃え尽きなければ終わらぬと申してるのか?」

側近の池田が咳払いをして口がすぎる月に注意を促す。

「いかにも…乱世を終わらすは強大な力のみ、ぞ。」
諭すように信長に言い切られ、月は俯く。手綱を握る手に一粒の雨が落ちる。一気に降り出した雨に信長は片手をあげた。

「…見よ。信長の奇襲に、天をも味方した。」

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