無双クロニクル夢
□厳島の嵐
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敵は三万、味方は五千。
稀代の智将と名高い毛利元就は、温和な笑みを浮かべて嵐を見ていた。
その視界の端に、柱にもたれかかりながら他の者につがれる酒を無表情ながらも慌てたように断る少女が映る。
先の戦で厳島神社の詰め所を鮮やかに制圧していき、陶晴賢を追い詰め撃破したのは、そこで困っているまだあどけなさを残した少女月だった。
宮尾城にて嵐が帰れる程度になるのを待ちつつ勝鬨も済ませ、簡単な祝いの席に月も居た。
息子の隆元までもが何か賛辞を述べながら酒を勧めている。
(やれやれ、こまった子達だ。)
元就は重い腰を上げて月の近くに行くと、息子以外は蜘蛛の子をちらす様にいなくなった。
「やぁ月、君の活躍は抜きんでていたよ。お礼を言わせてもらうよ、ありがとう。」
少し驚いたかに見えたがすぐに表情をもどして、わずかに頭を下げる。
子供にしては大人しいが、手渡した団子に少し目を輝かせて、食べる。なんと可愛らしい。
「…いえ。」
「私の百万一心の理想を実現させるには、一人一人が見据える先を自覚する必要がある。君にはそれがあるかな?」
突然の話に団子を飲み込む音がごくり、とよく聞こえた。意志の強そうな瞳とは反対に薄い色素の髪が風で揺れる。
「……漠然となら」
「ははっそれは頼もしいな。君たち若者が目覚ましい成長をみせてくれてよい歴史が展開することを望んでいるよ。」
「ち、父上!月を召し抱えたいのですが…!このような強い女子は世に二人といません!」
隆元が言った言葉に月は驚いた表情を見せる。どうやら完璧に片思いらしい。
「うーん?無理じゃないかな?…嵐はいずれ、去るものだよ隆元。」
「あらし、ですか?」
「私としてもこのままそばにいてほしいけどね。月、君はとても美しい。」
髪を優しく撫でると、月は照れるでもなくにこっと笑った。うーん。どうやら私も脈なしか、とがっかりしながらも月の脇に両手を差し込み、高い高いを子供にする様に持ち上げて肩に担いだ。周りがどよめく。その中を堂々と歩いて上座までいくと隣におろし、座らせる。
「……えっと…?」
「さぁ、私の話を聞いてくれないか。私は軍記や歴史書を知るのが趣味でね、常々披露したいと思っていたんだ。どうせあと二三日は動けないよ。」