鬼と血の楔
□入隊なり
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久しぶりに負けたのか、藤堂はいまだに地面に座り込んでいた。
まさか、隊士希望のどこのやつかもわからない
ふらりとただ憧れだけを新撰選組に抱いて来た男に負けたのだ。
悔しいのは、あたりまえだろう。
「よろしくな、藤堂さん」
立ち上がれるようにと手をだすとなんだか、小言を言っているようだ。
「いいよ、呼び捨てで…それにお前はオレに勝ったし…」
最後の方は本当に小さな声でほとんど聞こえなかったのだが
真琴にはなにを言っているのかだいたいわかってしまった。
わかっていながらも、もう一度、と要求した。
完全にいじわるだ。
「いや、なんでもねぇぜ、オレとお前、おんなじ位だし、呼び捨てで構わねぇぜ。
誠、よろしくな」
そういって真琴の手をとり、よいしょと立ち上がる。
そんな藤堂のことを犬みたいだな、と思いながら、平助とよんだ。
恥ずかしそうに、いや困っているように体をよじらせている者がいた。
あの男装少女だ。
「あのっ、私は雪村千鶴です。えっと…緑川さん?」
「真琴でいい。女の子に『サン』呼ばわりするのって、なんかむずむずするんだよね〜」
と笑う。
その笑顔に安心し、緊張がほぐれた雪村は真琴、と呼んだ。
顔を真っ赤にさせて。
そんな反応を見せた千鶴を少し、離れて見ていた藤堂がなにをしたんだ、と誠を問い詰めたのは言うまでもなく。
「そうそう、そう呼んでくれると嬉しいな、千鶴ちゃん♪」
そんな平助のことをいない存在かのように無視し、もう一度千鶴に笑顔をおくる。
無視するなーという藤堂の声が屯所に響く。
すぐあとに、鬼がすごい剣幕で向かってきて藤堂をうるさい、と捕まったのを、誠は見届けた。
そのあと、藤堂がどうなったのかは誠は知らない。
ただ、原田が大変だなと哀れみの言葉をおくっているのを聞いた。
一体、どんなことが…
と少し気になったが
実際にくらうことのないようにとあわれな藤堂の背中に手を合わせた。