鬼と血の楔
□取引いたしましょう
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「失礼ですが、だいたいの予測はつきました。
なのでこれは取引を行ったことにしましょう」
前回までーーーーーーーーーーーーーーーーー
そう言って真琴は刀をとりだし、刃を自分の肌にあてる。当然、真琴の肌には血がにじむ。
「お前っなにしてんだ!!気でも狂ったのか!?」
驚く土方を目で制し、血を拭う。そこには、傷を呼べるものはすでになかった。
「お前も…鬼なのか?」
「いいえ、俺は人間ばなれした力、速さ、回復力などをもっている奴らとは違う。その証拠に、失礼します。副長」
真琴は、血を拭った刀を、今度は土方の肌に強く押しあてた。
「なにしやがる!!」
「ちょっと、待って下さい。そのままで」
真琴はもう一度、自分の肌に刃をあて、血をにじませた。
傷がふさがる前に滴る赤い雫を土方の傷の上にたらし、二人の血をふいた。
そこには、真琴同様、傷はなかった。
「どういうことだ?」
「俺の体、特に血は回復能力が高い。その力を分けることもできるんです。死にそうなやつも俺の血を飲めば、命拾いするくらい強力な、ね」
「羅刹も命拾いする位の力はある」
「けど、そのかわり、日中の行動が困難になり、吸血衝動が起きますよね。俺みたいなやつは故郷では有名でしてね、『願いの雫』とか『願イ人』と呼ばれて、崇められてたんです」
「んなもの、あるわけねぇだろ、といいたいところだが、見ちまったもんはなぁ…。ったく、いつから俺はそんなありえねぇことに驚かなくなっちまったんだ?」
慣れって怖いですね、副長。という今の状況にあわない台詞を言い、仕切りなおす。
「えっと、どこまで話したっけな?うーん、あっ、だから、羅刹なんか作らなくても、なんとかなるかもしれないってことです」
「お前の血を飲んだ場合、の話しだろ?お前、そんなことあの人に言ってみろ、全部とられるぞ。落若水の話もある条件付きで飲み込んだんだ。こいつがねぇと新選組はなくなる」
「じゃあ、日が弱い、というところを回復するように俺の血を飲めばいいじゃないですか。やったことないけど」
「だがよ、どうしてそこまでやるんだ。お前がぶっ倒れちまうと今の新選組は困る」
「俺の村には五十年に男女、一人ずつ俺みたいなやつが生まれてくるんです。それに目をつけた幕府のお偉いさんが、俺を養子にしたんです。豪華な生活をネタにね。まぁ、もう一人とまちがえたんですけど」
なつかしそうに語る真琴の瞳には、なぜか揺れる影があった。
「お前たちも子を産む女のほうが大事なのか」
「いえ。願い人は不思議なことに血筋は全く関係していないんです。その土地の水とか空気とかそういうモノが関係しているんじゃないかって言われてますけど、本当のことはまだわかっていません。
あの人たちは、そんな確立の低い方法は選ばないでしょう。あの人たちは戦場で使える男が欲しかった。俺はモノとしてしか扱われないことが嫌になったんです。
それに、まちがいをつかまされたことにあの人はかなり怒りましたしね。
俺は、自分を示したかった。だから、新選組に入ることにしたんです。もう副長はわかってしまったでしょう。いや、最初から知ってたりして…。俺の秘密ってヤツを」
「よくまぁ、こんなに上手に男装したもんだ。俺だってわかんなかったぜ。他の奴ら、原田や斎藤さえも気付いていないかもな。
だがよ、例え体は女でも、俺がみたかぎり、お前の志は武士そのものだと思うぜ。まぁ、武士のまねをしているのは俺達もおんなじだが」
土方は少し、寂しそうに笑った。まるで、自分もそんなことがあったかのような表情を浮かべながら。
真琴は驚いた。そんなこと言ったら「でていけ」と言われると覚悟していたからだ。
「今の新選組にはお前みたいな剣客が必要だ。他に言うことはねぇか?なかったらさっさといけ!俺もお前も大したことは話してねぇし、聞いてねぇ」
「副長…」
この人は自分を人として、一人の男として必要としてくれている。そんな副長の姿に感動し、憧れた。涙ぐみながらお礼をいい、広間をでようとすると、副長が本題をだして来た。
「あいつの護衛の件だが、許可する。ついでに一つ頼まれろ」
「はぁ…」