鬼と血の楔
□副長に御願申す
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「んで、話って言うのはなんだ」
「俺を千鶴ちゃんの護衛役にしてください」
突拍子もない発言に土方の目は大きく開かれた。
「あいつは、大事に客だ。そう簡単に…」
「千鶴ちゃんは鬼で、鬼達…風間とかいう奴らに狙われている。そうですよね」
「真琴、お前はこの短期間で平隊士が知ってはいけない領域に入りすぎだ。普通なら…」
「『殺している。お前は信用ならない』ですか?」
「そうは言っていねぇ。確かにお前は短期間で俺達の秘密を知りすぎた。だが、お前がその間にたてた手柄は、他の奴らの倍」
真琴は土方に攻め寄った。
「じゃあ、教えてください。山南さん達、新撰組のことも。できるだけ全部っ!!」
「できるわけねぇだろ!!本来、ただの隊士のお前がここにいること自体、異常なことなんだぞ」
「すみません。でも…俺、新撰組の役にたちます!!」
「なぜ、そう言いきれる。お前に知られていいことなんざ、ない。いくらお前が使えるからといって、殺さなねぇわけじゃねぇぞ」
普通の人ならば、逃げ帰ってしまうような気迫だが、真琴は逃げない。
「俺、聞いてしまったんです。『羅刹』のこと。こんなこと、沖田さんに知られたら、一発ですかね」
土方は立て直すかのように、ひとつ、息をつく。
「はー。ったく。いいか、少しでも外に漏らしてみろ。そんときは斬る。わかったな」
「ありがとうございます」
副長が教えてくれたのは、本当に少なかった。
少しの情報をつなぎあわせると、羅刹はある人の依頼で行っている実験でできた『落若水』を飲めば、なってしまう。
飲めば、筋肉や体力などの発達なのが得られるかわりに、日中の活動が困難になったり、血を欲しがるようになる、といったところか。
俺の推測からすると、ある人とは、幕府だろう。
「俺みたいな隊士に教えるだなんてらしくないですよ」
「まったくそのとおりだ。お前に問い詰められると、教えちまいたくなった。副長失格だな。
幹部のやつらには言うなよ。特に総司にはな。面倒なことになるだろうし、俺はお前を殺さねぇといけなくなるからな」
「副長、あなたは隊の秘密を言った。ならば、信用してもらえるように俺の秘密を話します。少しでも俺が言ってしまったら、みんなに話してくれて構いません」
「あぁ?そんなつもりで俺は教えたつもりはねぇし、最悪ばれても平気なぎりぎりを言っただけだ」
「失礼ですが、だいたいの予測はつきました。なのでこれは取引を行ったことにしましょう」