鬼と血の楔
□来襲
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「さっ、帰ろっか。なんだか今日は胸騒ぎがする」
そういって真琴は千鶴の手をとり、走り出す。
「ちょっ、真琴っ、手…」
「なに赤くなってんの?」
少し、沖田と似た笑みを含み、千鶴の顔を覗き込んだ。当然、顔はぐっと近くなる。
ますます、千鶴の顔は赤くなる。
「離さないよ、千鶴ちゃん。君の手をね」
甘めの台詞だが、それに含まれているものは、鋭く、殺気とよく似ていた。
「なんでっ…?」
しかし、それでも千鶴の顔は慣れない台詞に比例して沸騰した。
「なんでって、気付かないの?こいつらがいるからさっ!」
目にもとまらぬ速さで石を拾い、道の端に投げつける。そこに人影はないはずなのだが
「ほう、人間風情が俺様に気付いたか」
千鶴の目は過去に連れ去られそうになったことを思い出し、大きく見開いた。
風間さん!!
「ヒュー。ガキが女を口説く時間じゃねぇぜ。ガキはとっとと帰っておねんねしろ」
不知火さん!!
千鶴の体は反射的に身を固くし、一歩下がった。
「なに?俺があいつらに負けると思うの?」
本当に小さな声でささやく。その声音には千鶴を安心させるなにかがあった。
千鶴の表情が少しやわらかくなったのを横目で確認に刀に手をかける。
「やめておけ、人間。犬死するだけだ」
千鶴はハッとし、真琴の袖を強くつかんだ。
「やめて!この人たちの狙いは私だから!真琴は私を置いて逃げて!」
真琴は強い。それこそ、幹部のかたとひけをとらないほど。でも、この人たちは違う。
人間じゃ、ない。
「俺が君を置いて逃げる?もう少し、おもしろい冗談が欲しかったなぁ。それに、万が一置いて逃げたところで副長にどやされるのは目に見えてる。
俺はそっちのほうが怖いよ。最近、やり合ってなかったし、運動にはちょうどいい」
「ふんっ、弱い犬ほどよくしゃべる。ガキだからといって殺さないわけではないぞ。邪魔をするならば容赦はしない」
「だまれぇぇぇぇ――!」
刀を勢いよく振り上げる。
金属と金属がぶつかりあう音が何度も何度も響く。
「人間のくせになかなかだな歯ごたえがありそうだ」
「なにも噛めなくなるといいねっ」
「ふっ、その台詞、どこかで聞いたな…。」
「俺には関係ない」
そんな攻防の繰り返しにせきをきらした不知火がいた。
「おいおい、いつまで遊ばれているつもりだ。このガキは俺が始末してやるよ」
その言葉を言い終わると同時に銃声が響く。
「まことぉぉぉぉぉ!」
ありったけの声で叫んだ。あの状態で銃弾をよけられるはずがない、と。
しかし、不思議な光景が千鶴の目に入った。
真琴は、放たれた銃弾二発を、軽やかに全部よけてしまったのだ。
思わず、風間の手も止まる。
「お前は…鬼?いや、そんなにおいはしない。では、羅刹…か?」
「鬼?羅刹?俺はそんなおとぎ話程度の生きものじゃないよ」
「鬼を愚弄するとは…許さん」
「さぁ、遊びは終わりだよ。そろそろ帰らないと怒られちゃう♪」
千鶴は一瞬、真琴に沖田の姿を重ねた。
彼の顔は沖田そのものだった。冷静に冷血に笑う。
「なにやってんだ!真琴!お前はっ…」
聞きなれた声がする。