鬼と血の楔

□男児たるもの
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数日後…。

隊士たちはくちぐちに新しくきた隊士、真琴の話をしていた。

「すごいよな、あの緑川真琴っていうやつ。一見ただのガキにしか見えないが、突然、大人の冷静さを見せてきやがる。

しかも、腕がたつ。
んでもって、まだ入隊してから一カ月と経っていねぇのに、幹部の人たちとしょっちゅう酒を飲む仲になってる。なのによ、なんでうらめず、憎めねェんだ?」

「あぁ、ほんと不思議だ。あいつといると落ち着くしな」

千鶴の耳にはそんな台詞がしょっちゅう入っていた。

「すごいな、真琴は。私も頑張らなくっちゃ!」

そういえば、門の前の掃除がまだだった。

よし、頑張るぞ。


「あれはー、平助君に原田さん、それに永倉さん?なにしてるんだろ」

「げっ、まさかこの子に見つかるとは…」

「永倉さん?もしかして、私ここにいちゃ…?」

「いっいや、そういうわけじゃねぇんだが…」

「新八、隠さなきゃいけねぇことでもねぇじゃねぇか」


「お出かけ、ですか?」

「今から島原にいくとこなんだが、千鶴、お前も一緒にいくか?男装してりゃばれねぇだろ」

「おい、佐之、なに本当のこといってんだ。っていうか、つれてけるわけねぇだろ、島原なんかに」

「別にいいじゃねぇか。しゃくでもしてもらおうじゃねぇか」

永倉は聞こえないようにと、小声で言う。

「お前は酒目当てだからいいかもしれねぇけどよ…」

千鶴はきょとんとした。

そっか、島原といえば、綺麗な女の人だもんね。

「平助君もいくの?」

自分と同じくらいの彼が行くとは、びっくりだ。

「あっ、俺はそのー」

「正直に言っちまえばぁ?女目当てだって」

原田の後から声がしたことに千鶴は驚いた。

まさか、人がいるなんて思わなかったのだ。

「真琴!?あなたもいくの!?」

そっか、二人とも見た目は同じくらいだけど立派な男の人なんだよね。

ひとりで納得する。

そんな千鶴の様子に真琴は気分を害したようだ。

「俺とこいつらを一緒にしないでくれるかな?
俺は佐之さん同様、酒目当て。
こいつらと一緒に飲むのは馬鹿がみれて楽しいし、勝負に弱いからいつもただ酒が飲めるしね。
それにさ、女目当てに島原いく男なんざ、相手にしてくれない女の人が一人もいないかわいそうなやつらが大概だ。
ねっ、佐之さん♪」

同意を求めるように原田を見る。

原田はわざとらしく鼻で笑う。

「あぁ、こいつらみたいな、だろ?」

永倉の肩が小刻みに震える。

が、それ笑っているからではない。

「てめぇら、この俺様をどこまで怒らせるつもりだぁ?」

「逃げるぞっ、真琴っ」

原田と真琴が走り出すと同時に永倉がなにか叫んだ。

楽しそうな男たちの姿を目に映す千鶴は真琴に
「憧れ」という感情を抱いていた。

すごいな真琴は。まるで、何年も前から一緒にいるみたい。

女の私には入れないだろう。そんな世界に入れる真琴が羨ましい。

「じゃあさ、島原行くのやめて、町にでもでて、誰が一番モテるか競うってぇのはどうよ?」

そんな平助の発言に呆れを隠しきれない真琴は

大きなため息をつく。

「はぁー、これだからモテないヤロ―は…」

「えっ!なに、あんな大口たたいといて勝つ自信ないのか、真琴?
えぇ?俺はもちろんあるぜ。どこをとっても色男の藤堂平助様はな!」

ぴくり、と真琴の眉がうごく。

「うけてたつ」

「よしっ、じゃあ、きまりだな」

いつも冷静な真琴がこんなしょうもない戦いにのった。

千鶴は不思議でたまらない。

「おっ、平助、頭いいじゃねぇか、めずらしく」

「平助、もしや俺を…」

地を這うような低い声で唸る。
「へっへ〜ん」

自慢げな顔の藤堂を受け流し、千鶴に笑顔で

「君にも来てほしい」という。

「えっ、私もいいんですか!?」

「おっ、ちょうどいいじゃん♪誰が一番もてたのかみてもらってればいいし。見てろよ、千鶴。絶対俺が一番だからなっ」

「そんな大役を私が…」

「まぁ、千鶴なら公平な目で見るだろうしな」
原田も太鼓判をおす。

「頑張ります」

大役の責任感を背負いながら得意そうに笑う藤堂の笑顔に逆らえず、是といってしまった。

やってやったという藤堂の顔は、その後、すぐ真琴に泣き顔に変えられてしまうのであった。
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