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□アカギの中では名も無き感情
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※平山死後





「鷲巣。アンタ平山を殺したらしいね。」


それが雀卓につくなりアカギが発した第一声だった。
アカギは鷲巣しか見ていない。
アカギにとっては鷲巣以外の面子など所詮数合わせの人形くらいにしか見ていない。
鷲巣にしろ然り。
しかし鷲巣は今日のアカギから何ともなくいつもとは違う印象を受けていた。
見たところ別段変わった様子は無し。違和感だけが募る。
喉の奥に引っ掛かった小骨のような不快さが不気味に鷲巣を取り巻く。


「平山…?ああ、あの生意気な青二才の事か。
何の歯応えもないつまらん男だったか。
しても殺したとは人聞きの悪い。
金で払えぬ分を命で払ってもらっただけの事。」



「別に恨み言を言いたいんじゃない。
死んだのは自分の責任。分を弁えなかったアイツが悪い。」


「ならば何故今更その話を持ち出す必要がある。
お前にとってもどうでも良い話だろう。」


「さあね。ただあの男もアンタやオレに関わらず凡夫らしい一生を全うできていたら。
そう思うと何故だか腹の底がむず痒くて仕方ねぇな。」


アカギの瞳が鷲巣を真っ直ぐに見据える。
僅かに場の空気が異質なものへと変わった。
この男は滅多に見せない、いや今まで見せたことがあろうかあの空気。
一瞬鷲巣は長年感じていなかった"怖れ"に似た感情が自分を貫いた気がした。
何だ、これは。鷲巣は自身に戸惑う。
この男を叩き潰すために鷲巣麻雀がある。その罠に今こそ獲物がかかるというのに。
期待しこそすれ"怖れ"など――。


「さて始めるか。せめてアンタも同じ目に遭って貰わねぇとオレの気が済まないんでね。
腹をくくれよ、鷲巣巌。」


アカギは賽に手を伸ばす。
その手が僅かに震えている。
その時になって鷲巣はようやく違和感のありかに気が付いた。
アカギの瞳が宿しているのは普段のほの暗い狂気では無く、今にも自分を呑み込まんとする壮絶な怒りだということを。







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