main

□居酒屋会談
1ページ/1ページ







「なーにが凡夫だ!! 平山さんは天才だっつの!!」


「ちょ、伊藤さん声が大きい…」



たまたまカウンター席で隣になった男とポツリポツリと世間話を交わすうち、酒の力も手伝ってか余計なことまで話し込んでしまったことを今更ながら後悔した。
今ではその伊藤という男の言動を抑えることに必死になるあまり折角の酔いは粗方覚めてしまっている。

何のために酒に溺れに来たんだか。周りの客の視線も相まって平山は居心地の悪さに泣きたくなった。
隣の男も酔っているせいもあるだろうがそもそも何故そこまで他人に肩入れできるのか分からない。
見たところ本気で激昂している。
どんな身の上であれ他人の話など一時の愚痴、世間話として適当に聞き流すのが普通じゃないのか。


「ならそのアカギって奴は平山さんみたいにスッゴい計算出来るのかよ?山の牌全部覚えられます?普通に出来ねぇだろ。」

「まあ、そうですけど、」

「ほらぁやっぱり!半年前の夕飯だって覚えてないくせに何が凡夫だふざけろ!」



かろうじて残っていた敬語すら雲行きが危うくなってきた。
さすがに俺も半年前の夕飯は覚えてないんだけどな。
内心苦笑しながらそうですねと相づちをうつ。
会ったことも無いアカギをここまでコケにする男に平山は何故だかほんの少し微笑ましい気持ちが湧き始めていた。
本当ならば自分が言うべきセリフをすべて言われ尽くされてしまって愚痴る気も無くなってしまった。


「そう言えば伊藤さんって下の名前はなんていうんですか。」


「オレ?オレはカイジ。伊藤さんじゃなくてカイジでいいよ。」


男は平山を振り返って笑った。
その笑みは確かに酔っぱらい特有の間抜けなそれだった。
だが平山は伊藤という男がとても良い顔で笑うことにふと感心した。








[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ