main

□仮面
1ページ/1ページ




見知ってから日も浅いというのにいけ好かないコイツはあっさりとオレの前で鉄の仮面を脱いだ。
成る程普段上司を前に吐き倒している忠誠やら何やらはコイツにとっては自分の目的を達成するための虚言に過ぎなかったのだ。
確かに初めて見た瞬間から一癖も二癖もありそうな奴だと踏んでいたがこうも表と裏のツラが違うと不信を遥か彼方に通り越して呆れさえ感じる。
村上とかいう下っ端が黒崎様からお電話です、と子機を差し出したとき、コイツの顔に浮かんだ表情は怯えでも緊張でもなく純粋な苛立ちのソレだった。間違っても寵愛を受ける上司に向ける部類ではない。
ええはいもちろんと歯切れの良い返事をするなかで時折チラとこちらを窺うのは内容がオレの話題であることに他ならない。


お待ちしておりますと丁寧な結びの文句で電話を切った一条は舌打ちと共に村上に子機を押し付けた。
通話中に浮かべていたとろけるような虚偽の微笑みは霞のように消えていた。

「という訳だ。悪いことは言わないから帰れカイジくん。」


「え…何でだよ。」


「今の聞いてたろうがアホタレっ!!
その出来の悪いドタマに叩き込んでやろうか視察だ黒崎さんが視察にいらっしゃるンだよ。
ジジイ仕込みの胸クソ悪い嫌がらせを受けたくなけりゃとっとと失せろゴミ屑!!」


雨あられとぶつけられる罵詈雑言に一瞬言葉に詰まる。
よくもその綺麗な顔から耳を覆いたくなるような罵声が飛び出すものだ。
仮面は剥げたようだが真っ黒な腹の内まではまだ読めない。


「アホタレはお前だよ。帰れって今伊藤カイジはいるかって聞かれてたよな。何で来てないって嘘つくんだよ。
来たら引き留めておけって言われたよな。それを帰れってどういうことだよ。」

ただ純粋に疑問をぶつけているだけなのに奴の顔は赤くなったり青くなったりでまるでこちらが悪いことをしでかした気分になってくる。
言葉を紡ごうと形の良い口が打ちあげられた魚の様に開閉するが一向に音は出てこない。
目に見えた動揺。コイツの事だから何かしら企みがあっての演技、パフォーマンス。
分かってはいる。分かってはいるがお人好しの自分にとって女の心を傷付けたときの空気に酷似した、この圧倒的居心地の悪さはとても耐えられなかった。






[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ