fiction.

□ゴーストストーリー
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「待った。お前が振っては不公平だ。僕がやる」
「おや、坊っちゃんがで御座いますか?ではお任せいたします」
セバスチャンはすんなりと手にしていたダイスをシエル譲渡し自分は席にはつかずあくまで脇役だと言わんばかりに背後に待機している。
セバスチャンなら狙った目を出すことなど容易に出来るだろうし、連続して同じ人物の目を出して追い詰めかねない。そしてその標的は自分になってもおかしくない。
「では改めて、始めるぞ」
危機を回避したシエルはダイスをテーブルの窪みに投げ入れた。ダイスは数回回転し、劉の名前を上にし動きを止めた。
「おや、最初は我かい?じゃあそうだね、出だしだし軽いものを…」

あれは、我が18歳の頃に友人が実体験をして聞かせてくれた話なんだけど…地元でも有名な心霊スポットへ行った時のことだったようだ。
当時友人は同じ学年の男子と付き合っており、その他のカップル達とグループ交際をしていた。

3組のカップル、計6人で山の中にある古いトンネルに向かい、静かに中へ。
中は驚くほど静かで、友人はあまりにも恐かったので彼の腕にしがみ付き眼を閉じていたそうだ。
友人たちの前では他のカップル、仮にAとBとしよう。
A「やだ〜B、恐いよー」
B「大丈夫だって、いざって時は俺が守ってやるから・・・」
A「B・・・私Bがいれば恐くない!」
などとバカップル振りを発揮し、ずっとイチャイチャしていた。
A「んーBがキスしてくれれば恐くなくなるかも・・・」
B「えーしょうがねーなー・・・」
Bがキスしようとしたその時
「オエエェェェ!!」誰かが吐くような声が聞こえて来た。
みんながシン・・・としていると今度は明らかに友人たちの後ろから
「ッチ!」と舌打ちする音が聞こえてきた。
友人たちはすっかりパニックになってしまい急いで家に帰りついたらしい。

その後霊感の強い知り合いに話を聞くと
「あそこは危ない、特に女性を連れてるとその人は大体不幸な目にあうから『雌殺しトンネル』って呼ばれてるんだ」
と教えてくれたよ。
幸い友人たちは全員男だったので事無きを得たけど、もし彼が女性だったら・・・と今でも鳥肌が立つよ。

「おい。なんだその落ちは!」
「えぇ?何で怒るのさ伯爵。怖いじゃないか。もしも女性がいたらさ」
「皆様ご無事でなによりでしたね。さぁ坊っちゃん、ダイスを」
「っ…仕切り直しだ」
劉の話に不満を隠せぬまま、シエルは再びダイスを降り投げた。すると今度は藍猫の名前が上の面には刻まれていた。
「藍猫の番だよ。さぁ頑張って」
席があるというのにわざわざ劉の膝に座っていた藍猫は小さく頷いて、淡々と語り始めた。

台風が近づき、空気の流れは不穏だ。雨も強い。
さて、こんな夜だ。
少々趣向を変えて、聞いていただきたい話がある。

それは、ある学生が体験した、ある恐ろしい出来事。

この手の話が苦手な人は、この先を聞かないほうがいい。
そしてもし、聞くのなら、途中で放り出さず、最後まで聞いたほうがいい。
いくら恐ろしくても。

学生の友人の一人が、自分はどうも霊感があるらしいという話をしていた。虫の知らせとか、予感とかそういったたわいもない話で、
彼は半分上の空で聞いていたのだが、隣で黙って彼らの話を聞いていた一人の後輩が、珍しくまじめな顔で、こんなことを言い出した。
後輩 「そういうことってあるんですよ」 
彼 「何が」
後輩 「霊感。実はおれもそうらしくて」
彼 「ほー」
後輩 「‥‥」
彼 「‥‥?」
後輩 「あの、先輩。最近、何か変わったことありませんでした?」
彼 「変わったこと?」
後輩 「‥‥足をけがしたとか、なんか痛いとか、そういうことありませんでした?」
彼 「‥‥別に」
後輩 「‥‥いや、それならいいんですけど」
彼 「‥‥‥‥何で?」
後輩 「‥‥あの、黙っていて何かあったら困るので言うんですけど。先輩、知り合いに坊さん、いませんか?」
彼 「‥‥いや、いないよ」
後輩 「じゃあ、知り合いでなくてもいいですから、一度お払いをしてもらったほうがいいです」
彼 「‥‥何で?」
後輩 「‥‥その、見えるんですよ」
彼 「‥‥何が」
後輩 「先輩の足のところに‥‥子供が」
彼 「‥‥」
後輩 「お払いしてもらったほうがいいです」
彼 「‥‥」
後輩 「おれ、その子の名前までわかるんですよ」
彼 「‥‥名前?」
後輩 「‥‥はい」
彼 「‥‥なんて言うの」
後輩 「‥‥」
彼 「‥‥」
後輩 「‥‥ひ」
彼 「‥‥ひ?」
後輩 「‥‥膝小僧」
その後に起きた出来事は、ここには書かないことにしておく。


「揃いも揃って…だから何なんだその落ちは!これじゃ涼しくなるどころか余計血圧が上がる!」
「普段はあまり話されない藍猫ですが、驚くほど流暢に話されておりましたね。表情を変えず淡々と話される技法に思わず聞き入ってしまいました」
小さな拍手と共に笑みを浮かべて誉め称えるセバスチャンにため息をつきつつ、シエルは改めてダイスを振った。
コロコロと転がったダイスは、今度はソーマの名前を上にし止まった。
「お前だソーマ。解っていると思うが、劉達みたいなオチは却下だからな」
「任せておけ!なんと言っても今から話すのは俺の実体験だ。シエルこそ俺の話を聞いてサーンカマーにしがみつくんじゃないぞ」
「王子の話、楽しみです」
自信満々のままソーマはゆっくりと語り始めた。

俺がまだシエルのタウンハウスに来て間もない頃、夜、寝てたら目が覚めたんだ。
俺は結構ぐっすり眠るタイプで、夜中目を覚ますのは珍しかったんだ。
まぁとりあえずトイレにでも行くかと体起こそうとしたら動かない。そう金縛りだ。

その時、人生初めて金縛にかかったから『凄いぞ、本当に動かせないんだな』と感心していたら、部屋の入り口から女の笑い声が聞こえんだ。

「ふふふ・・・ふふふふふ」

みたいな笑い声だった。

『俺は王子だ!怖くなんてないぞ』っと心の中で思ったら、うつ伏せの状態で寝てたら背中に重みを感じたんだ。

それが結構重たくて苦しくて、さすがに怖くなってきたんだ。

苦しんでたら耳元で、

「おい・・俺だよ・・・お・・・俺だよ」

って聞こえてきたんだよ。

で、また心の中で

『誰だ・・・』

と答えたら、

「俺だよ・・・ルパンだよ・・・」

って言ってきた。

「ルパン!!?」

と叫ぶと金縛りは解けた。
そのあと寝たらまたルパンに襲われると思って朝まで眠れなかった。

「どうだ!怖いだろ!あの怪盗が俺の所に来たんだ」
「はぁ…」
頭を抱えながら深いため息をつくシエルに、話が恐ろしすぎて声もでないかとソーマは胸を張り満足げな笑みを浮かべた。
「どうやら一番怖い話は俺に決まったようだな」
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