fiction.

□my employer
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なんですかこの人達、人がせっかくいつもの決め台詞を一番良く映る角度で発してる最中に堂々と横から…しかもあと一文字、たった一文字「す」を言わせて頂ければ終わったというのに。
ここはファントムハイヴ家であることをお忘れなんでしょうか?執事長の決め台詞は何人たりとも邪魔してはいけないという目録すら存在しているというのに…やはりトランシー家関係者は私と坊ちゃんの敵です。
ですが今は客人…ですから私は執事としての態度をとります。
「只今お声をかけに行こうと思っていたのですが」
「部屋にいてもつまらないからクロードとちょっと屋敷の中見てたんだよ」
なに勝手に他人のお屋敷を闊歩なさってるんですかっ!あなた貴族でしょう!これもう二回目ですよ!
「我が屋敷も隈無く調べ上げられたようでしたので、これでイーブンということに」
あ、そういえば仮装舞踏会の時に私も坊ちゃんに頼まれて…。しかしあれは命令であり、坊ちゃんはしっかり会場にて壁の花をしてらっしゃいました、この私を丸め込もうとは…やりますねクロードさん。
「アフタヌーンティーをご用意致しましたのでどうぞお席に、坊ちゃんももうそろそろおいでになられますので」
今、セバスチャンて顔には出さないけど凄いいろんなことを腹の中では思ってるんだなぁ。とお思いになりましたね?
当然です。この世界には不可解な人種が多すぎますから…。
さて、廊下に姿を見せた坊ちゃんをテラスにお連れし、アフタヌーンティーの始まりです。
香り立つ紅茶をカップに注げば、咲き誇った白薔薇の甘い香りと合わさりさらにかぐわしい香りを放ちます。
その紅茶を飲み、ゆっくり香りを楽しんでからフォンダショコラを口にする坊ちゃん。
あぁ、こんなに絵になる方が他に存在するでしょうか。少なくとも私が知る200年余りの年月の時にはいらっしゃいませんでした。
「クロードのも美味いけど、セバスチャンが作ったおやつもクソ美味いよ。クロード最近和菓子系ばっかりなんだもんたまには洋菓子がいい」
「旦那様の口に運ぶまでに崩れてしまうので和菓子をご用意していたのですが、明日からはそういたしましょう」
あぁ、せっかく美しいモノが見れているのにそのBGMがこんな会話では…。
「和菓子か…」
坊ちゃんさり気なくあちらの会話をお聞きになられていたのですね。
はっ!そういえばこのあと坊ちゃんはアロイス様御用達の和菓子屋に行く予定では…ならば今いつもの量のおやつを召し上がることは阻止しなければなりませんね。
ちょうど坊ちゃんはショコラを半分召し上がったところ、今お下げすればちょうど良い量になるはずです。
紅茶をお飲みになっていらっしゃる坊ちゃんを見計らって、今です…。ブスッ
「…あの、坊ちゃん。その…フォークを突き刺していらっしゃるのはショコラではなく私の手なんですが」
「あぁそうだったか。僕のショコラを下げようとしていたような場所にお前の手があったからつい手元が狂ったんだろう」
いや、確実に横目で私の手の動きをマークしていなければこんな絶妙なタイミングで刺せないと…あなたましてや人間なんですから。
しかしこんな事で負けてはいられません。
「このあと街で和菓子を召し上がるのでしょう?でしたらアフタヌーンティーはこのくらいでお控えください。でなければ御夕食が入らなくなってしまわれます」
「嫌だ」
まぁそうおっしゃるのは目に見えてましたけどね‥。私が作ったスイーツを欲してくださるのはとても嬉しいのですが、それとこれとは話が別です。
せっかくの坊ちゃんのスタイルが崩れてしまうのは許されません…背も今がジャストサイズなのでわざと背を止めているのは秘密ですが。
え、坊ちゃんにそれがバレればフルボッコ?
お嬢様の想像力は目を見張るものがありますねぇ‥敢えて人間の言葉をお借りするとしたら、そうですね。
『バレなきゃ良いんだよバレなきゃ!!』
…失礼致しました。フォークが刺さったままでしたので少し取り乱してしまいました。
あぁ、気づけば坊ちゃんにお出ししたおやつはいつの間にかなくなってしまいました。
フォークは私の手に刺さったままでしたので、指に付いたチョコレートを拭いているところを見ると指先で摘んで召し上がったのでしょう。
…見逃したのが大変残念でなりません。アグニさんのように血の涙が流れそうな程に悔しいです。
「さぁてと、お茶も終わったし行こうよシエル!早く行かなきゃ和菓子屋閉まっちゃうし!」
アロイス様、坊ちゃんをこれ以上和菓子で釣るのはやめてください。いつもはお出かけする時は私が促しても渋々だというのに今日はお席を立つのもお着替えもなんともスムーズでちょっとジャパンのあんこと白玉と寒天類にジェラシーです。
さて、坊ちゃんと私…とアロイス様とクロードさんを乗せた馬車はスムーズに街へ到着。
「買い物はお前が済ませておけ。僕は先に店に行っている」
「……………………………………はい?」

流石の私も耳を疑いました。今日、街に出向いた目的は坊ちゃんあなたのブーツとハットの新調のためです!!本人不在でどうしろとおっしゃるのですか?確かに私は貴方の足の指一本ずつの長さまですべて熟知しておりますが…それでも私が独自で購入させて頂いた物の半分は返品されるではありませんか!!
何よりも執事に買い物任せて和菓子屋で和菓子と抹茶を優雅に頂くなんて…そんな優雅な和風坊ちゃんを独り占めしようとはトランシー家はやはり早めに削除した方が…いやいや、優雅な和風坊ちゃんを想像しつい考えていることがズレてしまいました。
「お前ならすぐ終わらせられるだろう。買ったものを馬車に積んだら迎えに来い」
坊ちゃんその発言はツンデレ要素として受け取ってよろしいんでしょうか。
『べ、別にお前となんか和菓子屋行きたいわけじゃないんだからねっ!』とか付け足して頂ければ満点なのですが…。皆さんがいらっしゃいますしあからさまなツンデレは控えたのですね?さすがですマイロード。
そうゆうことならば、サッサとご命令を遂行しなければなりませんね。
坊ちゃんのお召し物と靴屋は既に決まっていますので、30分もあれば全ての買い物は完了致します。
「では、坊ちゃんと旦那様は私がお店までお連れします」
「………よろしくお願いします」
坊ちゃんのお連れをクロードさんにお願いするなど、素手でよく切れる用紙の束を扱うぐらいに嫌なのですが、この状態では仕方ありません。
坊ちゃんの買い物をすぐに終わらせるしかありませんね。
「ゆっくりしてきなよセバスチャン。シエルの服やブーツならちゃんと似合う可愛いヤツじゃなきゃ」
「……そうですね」
そんなことあなたにわざわざ言われなくても解ってますー。部外者は黙っててくださいー。
「良いからサッサと行け」
「御意」
心でアロイス様に反抗しているのがバレてしまったのでしょうか?坊ちゃんの目が冷ややかだったような気が致します。
というかいつまでもドヤ顔のクロードさんもなかなか神経逆撫でしてくれますね。
坊ちゃん達が入店なさったお店を見届け、私は早速用事を済ませに。
ファントムハイヴの名前を出すだけで、店の主人は値段が張る品物ばかりをずらりと並べてくださいます。
まぁ安物を坊ちゃんに着せるわけにはいきませんのでこの対応は間違ってはいませんが。
たまには普段お召しにならない色合いも良いかと思いますが、そうゆう類はお色だけを見てサッサと返品に仕分けされてしまいます。
お嬢様も坊ちゃんに似合うと想いませんか?薄い黄色や黄緑色、水色や紫色が…。
え?淑女の方々がお召しになるお色ばかりではないかと?
あぁ、駒鳥の坊ちゃんの印象が私の中で強く残っているようです。
これは坊ちゃんには秘密ですが、実はファントム社の伝で別業社に駒鳥坊ちゃんの人形を発売していただきました。
お嬢様はもう街で見かけたことがあると思いますが…。
あぁ、つい話し込んでしまいましたね。予定より10分もこちらのお店にお邪魔してしまいました。包装箱に綺麗に納められたお召し物を片手に次のお店に参りましょう。
何着購入したか?本日は少ないので12着程でございます。
お次はこちらのお店でブーツを購入致します。ここのブーツは革も上質で柔らかく丈夫なため、坊ちゃんのあの長く、肉付きが殆どない華奢な御身足を包むのに最適なんです。
ここはオーダーメイドなので、本日は先日の分と新たなブーツの注文に伺いました。
成長を止めている私が言うのもアレですが、坊ちゃんは成長期。足のサイズも日々変化を遂げています。ですから毎回注文する度にサイズを改めてお調べしているのですが、今回はご本人が不在なので前回のサイズにて注文するしかありませんね。
お色やヒールの高さ、材質や硬さ、デザインなどを細かく設定するのですが、こちらは基本的にお召し物の色やデザインなどに合わせ私が全て決めております。
これだけ苦労しても坊ちゃんは容赦なく返品されるのですが…それもまた坊ちゃんなりの私への試練。
もっと僕を知ってよ、セバスチャンたら全然僕のこと解ってない!
という声を私はきちんと受信しております。ファントムハイヴ家の執事たるもの、主人の心の声まで狂いなく聞き取れずにどうします?
はい?だったら私は執事失格?
やはりお嬢様には執事のなんたるかを理解して頂くのはまだ早かったようですね。
ちなみに本日は14足程新調致しました。さて、遅れてしまった分を取り戻さなければ…。馬車に寄って荷物をひとまず置いてこなければ、さすがにお店の方にご迷惑がかかってしまいますね。
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