libretto

□蝙蝠
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「人間とは昔の記憶、思い出というものをまるで物のように大事にする生き物なのですね…ですが、美しい思い出なんてものも、重ねていけばいつかは…おや、雨が降り始めましたよ。坊ちゃん」
綺麗な色も何度か
重ねていけばいつか
哀しい黒色になる
諦めたように
あなたの瞳はつまり
そういう類のもので
誰をも寄せ付けないで
記憶を隠していた

細い雨が ただあなたへと
降り続くなら 洗い流せればねぇ…
「さぁ、すべて終わりましたよ。…おや、契約した時以来に私の姿を見て、あなたまでそんな表情をされるとは」
忘れた昨日も 許せない今日も 明日も未来も いらないなんて
完全な白の脆さを知って 完全な黒の深さ知って
動けないでいる

「あの日、あなたは血の涙を流した。泣きすぎたため血管が切れてしまったのか、それとも拷問故か…どちらにせよ、貴方が涙を見せたのは、あの紅い雫が最後…。それにしても、今日は本当によく降りますね」
人はいつも涙で
不実な色を落すよ
それは風が雨雲を
振り払うように
なのに雨は またあなたへと
とめどなく 突き刺さっていく

「貴方が私に嫌悪感を抱くのならば、それはおそらく同族だからでしょう」
忘れた昨日も 許せない今日も 明日も未来も 何もかもを
一つも残さず 受け止めてあげたい 黒ならば黒で愛そう
「さぁ坊ちゃん、同族は同族らしく…傷の舐め合いを致しましょう。この指や唇、身体の全てで、あなたを更に黒く…」
触れてもいいかな?
僕らは今更 白い鳥じゃない 身を寄せ合う蝙蝠でいい
密やかに空を じゃれあい泳ぐ 誰をも寄せ付けないままに
感じていたい

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