fiction.

□my employer
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紳士淑女の皆様…おや、本日のお客様は淑女の方が多いようですね。
ファントムハイヴ家にようこそおいでくださいました。
私、執事長のセバスチャン・ミカエリスと申します。
本日は、坊ちゃんの日常を私が朝からお休みになられるまでの一日を丁寧にご案内したいと思います。
では、私のあとを離れずついてきてくださいね。
今からまだお休みになっておられる坊ちゃんを起こしに参ります。
こちらが我が主、シエル・ファントムハイヴ伯爵、坊ちゃんの自室でございます。おや、やはりまだ眠っていらっしゃったようですね。
あぁ…なんて可愛らしい寝顔、女王の番犬などという異名など微塵にも感じさせないこの中性的な美しさ…起こすのはもったいない気がしますが、眠そうに開かれたエメラルドのような瞳もまた魅力的。
その瞳に私が映るだけでゾクッと致します。
「つっ立ったまま何をしているんだセバスチャン」
「おや、起きてしまわれましたか。おはようございます坊ちゃん」
「隣りで身悶えていたら誰だって目が覚める」
私としたことが、あまりの坊ちゃんの秀麗さに仕事を忘れてしまっていたようです。
香り高い紅茶をカップに注ぎ、その最中に皺延ばしをした新聞をお渡ししお時間を潰していただく。
あぁ、つまらなそうな表情で活字を追うお姿も素敵です坊ちゃん…紅茶をお渡しし、本日の朝食のメニューをお伝えしてから…いよいよ朝のメインイベント。お着替えに突入でございます。
ボタン一つもまともに止め外しが出来ない坊ちゃんの寝間着のボタンを外し、滑らかで透き通りそうなその肢体に先日私が選別し買い揃えた衣服を私の手ですべて着せていきます。
このような作業の時、私を呼び出したのが坊ちゃんで本当に良かったと実感致します。せっかく執事としてお仕えするならばやはり悪魔でも人選したいものなのですよ…。
「おい…なんだこの衣服は」
「お気に召しませんでしたか?街で流行のお召し物だとお聞きしましたので、一着だけご用意したのですが」
「こんなに丈が短い下はありえないだろうが!しかもなんだこの太腿まで長い靴下は!!」
いわゆる短パンとニーソックスなるお召し物なのですが、あの蜘蛛執事のガキ…いえ、主人がお召しになっていたのをリスペクトしたのですが。
いえ、むしろ坊ちゃんの方がずっとお似合いです。絶対領域とされる部分も完璧です。
さすが私の坊ちゃん…。
「いいから普通のを出せ!足がスースーするのとお前が気持ち悪い!!」
「私が…?」
「真顔のまま僕の足を見つめるな!!」
あまりの端麗な坊ちゃんの姿に、どうやら私は夢中になっていたようです。
悪魔の動きを封じるとは…さすが坊ちゃん。
おや、どうなされましたお客様?少々私を見る目が色々語りたがっているようですが…まぁ今回は見逃しましょう。
「生憎他の衣装は本日すべてメイリンの手によりずぶ濡れでございます。肌に貼り付くシャツを纏い私を魅了したいのでしたら従いますが」
「一回黙れエロ悪魔執事。ないなら仕方ない…だが夕方にでもなれば乾くだろう。そうしたら直ぐ着替える。いいな」
「イエス、マイロード」
朝食をお取りになってからは、坊ちゃんは本日のご予定をこなします。会社運営もお勉強もすべてファントムハイヴ家の伯爵ならば当然のこと。
そしてそれを影や陽向となり見守るは執事である私の仕事…。時間も厳守させていただき一分一秒の狂いもないように
「シエル!遊びに来たよ!シエルーっ!」
「いけません。そのような大声ははしたない」
あの感に障る…いえ、少年と執事の声は…。
坊ちゃんのお食事をご用意し、私は舌打ちしなが…いえいえ最高のおもてなしをするためエントランスにおいでのアロイス・トランシー様とその執事のクロードさん出迎えに。
「アロイス様、クロードさん。ようこそファントムハイヴ邸へ…しかし、次回からは是非事前にご連絡ください」
「そんな事よりシエルは!シエル出してよっ!」
そんな事ってあなたも仮にも貴族じゃないですかっ!
というより坊ちゃんを軽々しく大声で呼びつけるなんて失礼すぎるでしょう。執事兼教育係のクロードさんは一体何を…。
あぁ、駄目です。坊ちゃんの屋敷に大声を出し続けていらっしゃる旦那様をそっちのけでレースを物凄い速さで編んでらっしゃいます。
この屋敷にインスピレーションでも浮かんで坊ちゃんへの献上品にでもするおつもりでしょうか。
「なんだ、ギャアギャアと騒がしい」
はっ!その声は坊ちゃん。今はお食事のお時間だったのでは?
いくらなんでも食べ終わるには速すぎます。もしや…
「坊ちゃん、お食事はもう召し上がったのですか?」
「こんなに騒がしい中、ゆっくり食べていられるわけないだろう」
やはり残されて来たのですね。
「シエル!遊びに来たよ。たまには2人でどこか行かない?」
「僕は忙しい。今日も予定が詰まっていて遊ぶどころじゃ」
「午後から買い物のご予定が入っておられましたね。その時間を旦那様とお過ごしくだされば本日は失礼致します」
編み物を終えた途端のクロードさんのドヤ顔…お見せ出来ずに残念でなりませんが、どうして坊ちゃんの本日のご予定をクロードさんが知っておられるのかという疑問の方が優先ですね。
しかも私と坊ちゃんの2人きりの外出に水を注そうとは…同族といえど中途半端にオールバックになさっている頭にシルバーを突き刺したくなります。
「セバスチャン。こいつらに帰って貰え、買い物はお前とだけで充分だ」
「御意!」
あぁ坊ちゃん、やはり坊ちゃんも私と2人きりの外出を望んでおられるのですね。
ならば私は全力でクロードさんのオールバックにシルバーを…。
「そんなっ。お願いだよシエルっ!」
「くどいぞアロイス…僕はお前なんかと街になんて」
「最近スゴく美味しい和菓子屋さん見つけたんだ!」
はっ!いけない、坊ちゃんにスイーツの話しを振られたらっ!
「気が変わった。同行を許す」
「ありがとうシエルっ!」
あぁ、坊ちゃん…私との時間よりスイーツをお取りに。
「おめでとうございます旦那様。シエル・ファントムハイヴとのお出かけ、獲得でございます」
「クロードの作戦クソ役に立ったよ!」
あなたの入れ知恵だったのですねクロードさん…アロイス様に頭を下げながらまたもやドヤ顔をしてらっしゃるところから察するに、主が出掛けるならば自分も坊ちゃんのお側にいられる喜びを噛み締めているのでしょう。
あぁ憎たらしいトランシー家関係者。
ですが私はあくまで執事…クロードさんみたいに感情を表に出したりはいたしません。
「ではアロイス様、坊ちゃんがお出掛けになられる時間までおくつろぎ頂けるお部屋にご案内致します」
客人用のお部屋にお二人をお通しし、坊ちゃんが残された昼食の片付けをおこない、やっと坊ちゃんのお姿を見つめられる時間が再び訪れました。この時間からはピアノをお弾きになられているはずです。音楽室に参りましょう。
おや、早速音色が聞こえてまいりましたね。これはなんの曲目でしょうか。
あまりに耳にしたことがないぐらいに音がバラバラで不協和音のような…。
……邪魔をしてはなりませんのでお茶の支度を致しましょう。
決して坊ちゃんの演奏するピアノを目の当たりにしたくないからという理由ではございませんので、そのところは勘違いしませんよう…なんですかその目は。
お嬢様には笑顔がお似合いですよ?
ピアノのレッスンが終わればアフタヌーンティー、その後は街へ坊ちゃんの新たなブーツとお召し物を取りに向かいます。
と言っている間に不協和音…いえ、素晴らしい演奏の音色が止まってしまいましたね。急いでおやつの支度をしなければなりません。
本日は久しぶりにお天気にも恵まれましたから、お庭のテラスに真っ白な薔薇と同じクロスを敷いてそこで私特性のフォンダショコラをご堪能いただきましょう。
え、御託は良いから早く支度をしなければならない…ですか?
支度ならばお嬢様とお話ししている間に整えました。
ファントムハイヴ家の執事たるもの、お嬢様のお相手をしながらでもアフタヌーンティーの支度ができずにどうしま「わぁ!シエルの屋敷の庭も綺麗だね!ねぇクロード、家にも白薔薇を植えようよ。どっかの花引っこ抜いてもいいからさ!」
「かしこまりました、旦那様」
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