fiction.

□my employer
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かさばる箱をすべて馬車に積み上げ、坊ちゃんがお待ちになっておられる甘味どころへ向かいます。
着きました。
早すぎる?この程度の距離ならばお喋りをしていればあっという間でしょう?
しかしながら、この日本文化の建物に西洋人だらけというのはなかなかミスマッチですね…。
あぁいらっしゃいました。坊ちゃんはどうやら白玉クリームあんみつを召し上がっていらっしゃるようで…その前に置かれている空っぽの器。嫌な予感がいたします。
「坊ちゃん、ただいま戻りました」
「早かったな」
「あの、坊ちゃんつかぬことをお聞き致しますが、今召し上がられているデザートはもしや2つめでは…」
「あぁ。最初はわらび餅を食べたんだが、クロードがせっかく甘味どころに来ているのにあんみつ、しかも白玉クリームあんみつを召し上がらずどうしますと言うものだからな」
………やはりあなたに頼んだのが間違いでした。完璧に御夕食が入らないではありませんか!!
私への嫌がらせなのか坊ちゃんにバニラアイスを食べさせて唇に付いた溶け出した白い液体を舐めとる場面を見て今夜のおかずにしようとでもしたのか…いい加減ドヤ顔をお止めなさい!!
「坊ちゃん、もう甘い物は控えてくださらないとお身体に悪いですよ」
まだ残っているあんみつの器を取り上げると、かなりの不機嫌オーラをお出しになられていますが気にしません。
時間も押していましたので、私はそのまま坊ちゃんを抱き上げて華麗にその場をあとに致しました。
背後からはアロイス様の罵声が聞こえましたが一々気にしていられません。あと二歩で店を出られると思った瞬間、今まであまりお会いしたことのない方に呼び止められました。もちろん坊ちゃんも初対面です。
なにやら私達に紙に書かれた内容を伝えていますが、私はたった一言でその人物を黙らせ、坊ちゃんへの注意を逸らすことに成功しました。
その言葉とは…―。

「支払いはあの金髪の少年と執事です」
見事店を出た私は坊ちゃんを馬車に乗せて家路を急ぎます。
到着すると、まず坊ちゃんを部屋へと押し込ん…いえ、お連れしてから本日購入したお召し物をお部屋にお持ちしチェックしていただきます。
あぁ、今回は6着と4足のみ返品となりました。今までで好成績に入る数字です。
返品用のお召し物はとりあえず私の部屋にある1/1坊ちゃんアクションドールのお着替えとします。
なんですかお嬢様?
差し上げませんよこれはっ!!
…取り乱してしまいました。さて、一応御夕食の支度を始めましょう。他の使用人が壊した場所の修復は後回しにして、無事な食材でできる今夜のメニューを考えます…。本日はそれなりに気温が高かったですので、食べても見た目も涼しげで、さらに低カロリーな一品…これらすべての条件をクリアする料理。それは…。
「そうめんでいいですね」
決まりました。
出来ました。
さて、どうにかいつものお時間までに御夕食を準備出来ましたので坊ちゃんを呼びに行きましょう。
紅茶で甘ったるい口の中もさっぱりされている頃でしょうか。
「失礼いたします。坊ちゃん御夕食の支度が整いましたので…ん?」
リアクションがない…いつもでしたら、解った。や、部屋に持って来い、とかまだお腹はいっぱいだ、とか今夜はセバスチャンが僕を食べて…いえすみません最後は妄想で願望ですすんません生意気言いました。
…とにかく何かしらの反応があるはずなのですが、まさかまた連れ去られたのではっ!!
「坊ちゃん失礼いたします!」
思い切りドアを開けた目の前には…くたびれてうたた寝中の坊ちゃんがいらっしゃいました。
あぁ…なんとも可愛らしい寝顔です。ポイントはやや唇を半開きになさっているところでしょうか?
ずっと見ていても厭きないのですが、このままでは夜確実に寝られなくなりますので心を痛めつつ起こして差し上げなければ…え?悪魔に心はあるのか?
お嬢様、今そんな度シリアスな話題を出して良いのか空気を読んで頂けますかっ?!

こほん…さて、お嬢様と騒いでいた性で坊ちゃんが相当ムズがっております。このまま起きたら確実にご機嫌が悪いまま私に杖を貫通させたり顔面を蹴り飛ばしたりなどの八つ当たりをなさるでしょう。
あぁ心配はいりません。ファントムハイヴ家の執事たるもの、飛び散った自分の血液ぐらい完璧に住宅から染みとりできなくてどうします?
はい?問題はそこではない…はて、ではどの部分でしょうか。
人間が気にかかる事は悪魔にとっては些細な事なのでいまいちピンと来ませんね。
さて、坊ちゃんも夢への船旅からご帰還されたようですよ?
「…煩いぞセバスチャン。いい加減独り言体質を直せと何度言えば解る」
「申し訳ありません。これでも大分以前よりは減ったのですが…御夕食の支度が整っております」
「今は食べたくない」
「寝起きですしね…ですが負担になるメニューではありませんので、一口ぐらいお召し上がりになられてはいかがですか?」
「…持ってこい」
「御意」
あぁ忙しい忙しい!!坊ちゃんの部屋を出てからはこのような競歩で調理場まで戻ります。真面目に執事をやっているではないかと?
当然ですよ!!私は執事ですよ?ん?時々その設定を忘れさせるような言動が目立つ?不思議ですねぇ。
押し車にそうめんセットを乗せ、いざ出陣です。薬味は坊ちゃんが嫌うのでなしです。ネギ臭い坊ちゃんなど私の美学に反しますからね。
栄養のバランスは…明日野菜のみのメニューをお出しして結果的に良くします。
多少坊ちゃんのお身体に肉が付いても私的には問題ないのですが…また私と激しい運動をしてLet's diet☆です。
…すみません調子にのりました。
さて、再び坊ちゃんのお部屋に到着です。二度寝をされていないことを祈りながらドアを開けます。
「失礼致します。御夕食をお持ち致しました」
「あぁ…」
あぁ、大丈夫だったようですね。坊ちゃんの前に素早くそうめんセットをご用意し、めんつゆ防止のナプキンを坊ちゃんの首にセット致します。
坊ちゃんは微妙に不器用でいらっしゃるので、食べやすいように箸とフォークの両方をご用意させて頂きました。
早速箸で挑戦されていますが、さてどうなるのか…あぁ、落としましたね。もう少し摘みやすい所を狙えばよろしいのに、何故あの一角の麺ばかりを狙ってらっしゃるのか……。
っ!!Σ(」゜□゜)」
すみません取り乱しました。
あまりにも坊ちゃんが可愛らしいので…白色そうめんの中に、数本色が付けられた麺を入れておいたのですが、どうやらそれを食そうとされているようで悪戦苦闘なさっておいでです…あぁ、可愛らしい坊ちゃん…分かりました。そこまで色付きの麺がお好きならば今度からはどの麺にも私がしっかりお色を付けてお出し致します!
結局お色が付いた麺の場所のみしか食されませんでしたが、可愛らしい坊ちゃんが見られればそれで私はオールおKなのです。
サッサとそうめんセットをお下げして…とうとうやってまいりました毎日のオールイベント。
ご入浴です!さぁ坊ちゃんお召し物とブーツを脱ぎ脱ぎしましょう。あとでクリーニングに出す前にこれで私がヌキヌキ…失言でしたお忘れください。
さて、香り立つ入浴剤やシャンプー、石鹸、肌を傷付けないスポンジで坊ちゃんの柔らかい髪と華奢な肢体、きめ細やかな肌を磨き上げていきます。
「湯加減と力加減はいかがですか?」
「ちょうど良い。もう少し強くしろ」
「かしこまりました」
はい?一番危ないと思っていたのに普通に執事をこなしている?もちろんです。
坊ちゃんを襲ったりセクハラなんて私がするわけないではないですか。私はあくまで執事、坊ちゃんのおそばでこうしてお世話をさせていただける事こそが最大の喜びなのです。

そして…入浴後の浴槽掃除の時に坊ちゃんの抜け毛を回収することも最大の…どうしましたお嬢様、先程までの見直しましたという目線から、あくまで変態じゃないの!みたいな目線に変わりましたが…。
まぁ良いでしょう。坊ちゃんの髪を乾かして寝間着を着せ、ベッドに入ったのを確認し灯りを持ち退室し坊ちゃんへの直接のお世話は完了です。

丸一日お付き合い頂きありがとうございました。
いかがでしたか?私の色々な面が見れて考えさせられた…それは良かったです。
またいつでもお屋敷に遊びにいらしてください。本日はお越し頂き誠にありがとうございました。
END
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