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□夢の中の俺に告ぐ
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「凌・・」



「ん・・?」




さらさらと優しく撫でられる感覚がする。
そう思い目を開くと、跡部さんの顔がすぐそこにあった。



「また夢・・?」



いつもとは少し違う夢の始まりに戸惑いつつも、夢でも会えたことが嬉しくて跡部さんに手を伸ばす。
頬に手を触れると、跡部さんが吃驚した顔をする。
なんだか今日の夢の跡部さんは、いつもと違う。



「跡部さん・・・好き」



普段跡部さんを目の前にしたら絶対に言えないであろうこの言葉。
夢の中でなら、少し恥ずかしいけど言える。



「今日は積極的なんだな、凌」


「だって俺の夢だもん」


「ったく、まだ寝ぼけてんのかよ」



薄く笑う跡部さんの顔が近づいてくる。
夢の中での跡部さんとのキスは、いつもふわふわしてて幸せな気分になる。



「!?!?」



ふわふわなキスを待ち受けていた俺は、濃厚なソレにはっきりと意識を覚醒させた。



「んんっん〜〜〜」



寝ぼけていたせいもあってうまく息ができていなかった俺は
覆いかぶさる跡部さんの胸をぐっぐっと押した。



「あっ跡部さんっ?!」



少しはなれたものの、今だ目の前にあるその綺麗な顔に圧倒される。



「な、なんでここに?」


「なんでって・・俺様が直々に会いに来てやったんだろ」


「でも忙しいんじゃ・・?」



会いに来てくれたことはすごく嬉しかったけど、
それでも、もしかしたら無理してるんじゃないかと思って素直に喜べなかった。



「あんな程度の仕事、どうってことない」


「それならいいけどさ・・」



そう言って、近すぎる視線から逃げるように顔を逸らす。



「・・・・」


「・・・あ、あの?」



無言になってしまった跡部さんに不安になり、チラリと視線を上げると
終始こちらを見つめる跡部さんと視線が絡む。



「・・・・・///」



瞬間、何度も何度も繰り返し見た夢を思い出し顔が火照る。



「何赤くなってんだ?」


「な、なんでもないっ」


「あぁん?俺様に隠し事するつもりか?」


「なんでもないからっ・・//」



とてもじゃないけど、毎朝の夢の話なんでできない。
そんなこと話して、いやらしい奴って嫌われでもしたら俺・・。



「・・・・・」


「跡部さん・・?」


「・・・もういい」


「え・・」



冷めたような跡部さんの声と共に、俺の上から心地よかった重みがなくなる。
立ち上がってドアの方へと向かう跡部さん。



「帰るの・・?」


「あぁ」


「あ、・・待って!」



久しぶりに会えたのに、こんな喧嘩したような別れ方嫌だ・・。
それに、まだ一緒にいたい。
その気持ちが俺の身体を動かし、出て行こうとする跡部さんの後ろから抱きついていた。



「い、言うから・・言うから帰らないで下さい・・」


俺が隠し事をするから帰っちゃうのかと思って、抱きついたと同時にそう呟いていた。


「・・・」


「嫌いにならない・・?」



でも、やっぱり怖いからそう聞いた。



「うわっ・・」



すると、跡部さんが急に振り返りぎゅっと俺を抱きしめた。



「嫌いになるわけないだろ」


「あ、うん・・あのね・・」




跡部さんの胸に顔を埋めながら、俺は毎朝の夢について話した。



「・・・・」


「あ、跡部さん・・?」


「・・正夢にしてやろうか?」


「へっ?」



跡部さんの発言に驚いて上を見上げると、ニヤリと笑う跡部さんと目があう。
その整った顔立ちに見つめられながら、さっきの発言を思い出した俺は、
きっとリンゴのように赤い顔をしている気がする。



「んっ」



なんて返したらいいんだろうってあたふたしてたら、いつの間にか跡部さんのドアップ。
首から頭に添えられた手が俺の逃げ道を塞ぐ。
まぁ、もともとたぶん逃げる気なんておきなかっただろうけど。



「んん・・跡部さん・・」



俺の唇から離れたそれは、すっと俺の耳元へと寄せられる。



「その夢・・今見せてやろーか?」


「あっ・・あの」



いつもより低い声で囁かれたその声は、俺の全身を震わせた。
だけど。



「俺・・俺、これだけでも幸せだよ?」


「ククッ・・じゃぁ、また今度な」


「うん・・」



その日は、ずっとずっと抱き合ってときどきキスして眠りについた。
今の俺は本当にこれで十分満たされる。






だから夢の中の俺。
それは本当にまだまだ先の話になりそうだよ。
なんて、眠りにつく前に思った。







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