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□もう少しこのままで
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「永倉さんに原田さん、いらっしゃい」


「よぉ!」


「おう」



夕方過ぎ、お店の方も落ち着きを見せる頃その二人組はやってきた。
二人ともがたいが良く、一人は短い髪を緑色の小さな布で止めあげ胸元を大きく開け
袖のない服を着た、これぞ江戸っ子という雰囲気を醸し出す男、永倉新八。
もう一人は、赤く少し長い髪を後ろで一つに束ね、これまた胸元を開け
腹や腕に巻かれた包帯が、その金色の目から放たれる色気に危なさを足し女を引き寄せる男、原田佐之助。
俺よりも幾分も高い身長で、そのなりでは、二人に気づくなってほうがおかしいくらい目立っている。



「今日は、藤堂さんはいらっしゃらないんですか?」



この二人といつも一緒につるんでいる、藤堂平助。
毎回三人で来ているわけではないけれど、やっぱり誰か一人でもいないと気になったりする。



「あいつは今日の夜巡察だからな」


「お休み中ってことですね」


「そういうこった。・・ところで柚ちゃん、凌はまだ帰らねぇのか?」



夜の巡察ということを聞いて、今いない理由を納得しながらも心配する気持ちが湧いた。
大丈夫かななんて考えていたところに、新八からの質問。



「えっ?あっ・・えーっと、まだ出かけてるみたいで・・」


「そうか・・」


「まぁまぁ、そのうち会えるって。なぁ、柚ちゃん?」


「あ・・そ、そうですね・・ははは」



いつも豪快に笑っている新八が、今は豪快に落胆している。
そんな新八を左之さんが慰めながら、ニヤリと笑い目線を送ってくる。
その表情は、明らかに面白がっていて、俺は少しげんなりした。




俺は今、母さんの命により女装を余儀なくされている。
理由は簡単。
商売繁盛のため。
元々それほど店が大変だったわけではないけど、まぁとにかく少しでも多く稼ごうとすることは悪いことではない。
そして、俺が初めて女装して店に出た日、
その日もこの三人は来てて、バレてしまうのではないかと冷や冷やしたのを覚えてる。
まぁ、左之さんにだけはすぐに見破られたけど・・。
本人は特に何も言ってこないけど、あの目がそう語ってる。



俺が女装して店に出てから、(男の)客が比較的に増えたため
当分、この女装は続くだろう。
そうなると新八は”俺”と会うことは当分ないのだと思う。
正直、普通に”俺”として話ができないことは、少し・・いや、だいぶ辛いことでもあるけど。
母さんには逆らえない・・怖いから。


「そ、それより、注文は?いつも通りでいいですか?」


俺がそう聞くと、ガタという音と共に新八が立ち上がる。


「や、今日はもう帰る」


「え?」


「また明日来る」


「あ、はい・・お待ちしてます」



いつもなら豪快に2杯も3杯も食べていく新八が、何も食べずに帰るなんて・・。
少し心配しながらも、帰っていくその背中を見つめることしかできなかった。



「柚ちゃん・・俺、まだいるんだけど?」


「あ!すみません!・・すぐ準備しますね」


「や、いいよ。俺も話があってきただけだからよ」



その言葉に、いつもだったらお前ら店に貢献しろよっ!なんて軽口叩けるのに
生憎今の俺は、おしとやかな女、柚ちゃん。
といっても、左之さんにはバレているのだけど・・。


「そうですか・・もうすぐ仕事終わりますから・・そのあとでいいですか?」


「構わないぜ、近くで待たせてもらうから・・着替えてこいよ」


「・・・・・はい」



つまりは、本来の”俺”として来いってことなんだと、すぐわかった。








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