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□全部教えてあげる
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「におーせんせー・・・いる?」


ここは、科学室。
放課後のこの時間に訪れる生徒はほとんどいない。
そんなところに足を踏み入れているのは、受験生の片桐凌。
科学の苦手な彼は、よくこの教室に来ては
科学担当の仁王雅治に教えてもらっていた。


学校の最上階にある科学室の窓からは、夕日が差し込んでいた。
オレンジ色の教室の中を進み、黒板の横にあるドアへと向かう。
ドアの上には、科学準備室と書かれている。


「せんせー?」


ガチャリとドアを開け、中を覗き込む。


「おっ」


そのドアの奥には、椅子に背を預け、俯いてスースーと寝息を立てながら寝ている仁王がいた。
凌はそれを見て、悪戯っ子のような表情でニヤっと笑った。
普段クールな仁王の無防備な姿を見ることができて
まるで、弱みを握ったような気持ちにもなった。


「へぇー・・・まつ毛長っ・・とりゃっ!」


凌は、寝ている仁王に顔を近づけ彼の観察をした。
そして、鼻の頭に人差し指を乗せ、思い切り上に押した。


「ぷっ・・・ははははっ!おもしろっ・・うわっ」


「・・・人の顔で遊びよって・・」


仁王に変顔をさせて遊んでいた凌は、突然掴まれた腕に驚いた。
そして同時に聞こえてきた声は、少し怒り少し呆れたような音色だった。


「ごめんって、せんせ。今日も、勉強教えてもらいにきた」


「のう片桐。・・・本当に勉強が目的なんか?」


「え?」


捕まれていた腕を引っ張られ、仁王のほうに身体が傾く。
凌は見つめてくる仁王の瞳から逃れるように、視線を外す。
そんな凌の顔は、夕日のせいか、ほんのり赤く見えた。


「凌」


「〜〜〜〜〜っ!」


ボンッっという爆発音が出そうなくらい、一気に顔が熱く赤くなった凌。


「毎日毎日、勉強だけのためにここに来とったんか?」


夕日に照らされている仁王の顔には、片方の口角をあげニヒルな笑みが浮かんでいた。
その顔は凌の大好きな顔でもあった。
かっこよく、妖艶なその笑みは、凌の鼓動を早くさせた。


「教えっちゃるよ・・・」


「・・・」


「勉強じゃのうて・・・・俺んことをな」


「〜〜〜〜〜!!」


さらに上に上がった口角と一緒に降ってきた殺し文句に
凌は顔を最上級に赤くし、
膨れ上がる好きの気持ちを押し隠そうと必死になっていた。




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