お宝

□僕たちの場所
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『僕たちの場所』



教室のドアを開けたら、窓から外を眺めているお前がいた。

「橋野…?」

呼び掛けても返事がない。
ただ、吹き荒れる風と降り続ける雨をじっと見つめているだけ…。

俺は足を進める。お前の元へと。
ゆっくり、ゆっくり、着実に歩みを進めていく。

教室に在るのは、時を刻む時計の音と俺の足音だけ。
お前のものは感じられない。

「…」

何も言わず、俺はお前の隣に立つ。
そっと横顔を盗み見したら、その美しさに目を奪われた。

「ねぇ…涼」

俺の顔を見ずに、お前は静かに語りかけてきた。

「海みたいだ…」

「え?海?」

「うん。…ほら」

人差し指を校庭に向ける。
見れば、穏やかな波。
雨と風が砂と混じり合ってできた荘厳たる万物の世界が、そこにはあった。

「まるで別世界だね」

そう言って俺を見たお前の表情に、内奥が掻きむしられた。

「橋野…お前…」

消え入りそうで、儚い。不安定な形象。

「僕、毎日見てるよ、涼が練習してるトコ。いつもこうやって、窓から眺めてる」

お前は力なく笑う。

そうやってお前笑う度に、俺の感情はあおられていく。

「んなこと、言われなくても知ってる」

「そっか…。そうだよね」

俺から視線を外し、また校庭へと視点を変えたお前。
不安が胸をよぎる。

「…っ!!」

気がついたら、お前を抱き締めていた。

どうしようもないんだ。生まれたこの負の感情は、俺を縛りつけて放さないんだ。

「好きだ」

だから、一人で深い海に堕ちるな。
何もかも一人で抱え込むな。

「何の為に俺がいるんだよ」

「涼…」

「堕ちるなら、一緒がいい」


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