short
□20000打記念
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無機質で退屈な日々に嫌気が差していた。
突飛な世界に憧れてる訳じゃないけど少女漫画みたいな出会いくらいはあってもいいんじゃないだろうか。
そう思って今日も見慣れたマンションに帰宅した。
階段をのぼりながら溜め息をはくと、それは夜空を僅に曇らせた。
もう冬か。
実感すると寒さは急に増して、わたしは手を擦り合わせながら残りの階段をのぼり終えた。
ところがわたしの足はそこで動かなくなってしまう。
原因はわたしの部屋のドアにもたれかかって眠る男性が見えたから。
お酒の匂いがする彼は見た目的にわたしと同い年か少し上。
いかにも不審者ぽいおやじよりはマシだが、さてどうしたものか。
「…ちょ、起きてますかー?」
寝ているのだから起きてないに決まっているのにわたしは改めて自分の日本語力の乏しさを痛感した。
それにしてもここは寒いしとりあえず中に入れてやろうと思った心の優しいわたしは彼をリビングまでなんとか引きずった。
「ん…」
「あ、起きなすった?」
うっすらと目を開いた彼がぽーっとわたしのほうを眺めた次の瞬間。
むぎゅ、という効果音がつきそうな勢いで彼はわたしを抱きしめた。
いきなりすぎて頭がついていかない。
というか逆についていく人なんているのだろうか。
「え、あ、…大丈夫ですか?」
「ああ……この匂い…久しぶりじゃのう」
ん?
なんだか聞いたことのあるような声だと思ってもう一度彼を凝視する。
「………まさか、仁王?」
「よくできました」
仁王は中学三年の時に同じクラスになっただけで特に仲が良かったわけでもないし、なにより特徴的だったあの髪の毛が今では黒に染められていたため全く気づかなかった。
匂いが久しぶりだと言ったのは多分中学のとき、仁王が『お前さんの匂い好きじゃよ』と言っていたのと関係があるのだと思う。
「てことは酔ってないの?」
仁王お得意のペテンというやつは恐ろしい。
「酒は飲んだ。でもそこまで酔っとらんかった」
「なんのために?」
問題はそこなのだ。
今の仁王の行動は実に不可解である。
「お前さんの家に侵入するためじゃ」
「は?」
おいおい何いってんの。
「てか住所…お前はストーカーか」
なんて冗談半分に言うと仁王はけろっと頷いた。
「俺、中学んときからお前さんのストーカーじゃったけど?」
わたしは完全に固まってしまった。
だって中学のときはそんな態度は微塵も見せなかったし、たった一年クラスが同じだっただけであとは本当に関わりなんてなくて。
「あのすいません。なんでわたしなんかをストーカー…?」
「ずっとお前さんのことを好いとったから。」
はっきりと真っ直ぐにぶつけられた思いに、わたしは身動きすらとれなくなった。
「な…なんで今頃…」
ようやく紡いだ言葉は少し震えていたかもしれない。
「お前さん、卒業まで彼氏いたからの。そのあとも何度か会おう思ったけど全部きれいにすれ違いよるし」
中学のときに強引にでも振り向かせとけばよかったかのお…なんて彼は笑った。
「わたし今彼氏いない…」
「うん」
「だから…付き合ってあげないこともない」
「うん」
仁王は本当に嬉しそうに笑ってもう一度わたしを抱きしめた。
「それじゃあ同居開始じゃな」
「うん………は、はあ!?」
なにはともあれ、これで退屈な日々は解消されそうである。
ストーカー、恋を掴む。
end
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