short

□自殺ごっこ
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「わたし、今日死ぬかも」

授業中に突然そんなことを言い出したから俺はため息を吐いて隣の席の彼女を見た。


「お前はバカだね。なんでそんな突拍子もなくバカなこと言うんだよ」

「だってつまんないんだもの。色もないし音もない」


たまにこいつは病気なんじゃないかと思う。

でも多分それは彼女の心が何にも興味を示していないからなのだという結論に辿り着いた。

それと同時に昼休みを告げるベルが鳴り響いた。


そして再び授業再開のベルが鳴ったとき、隣の席は空席だった。先生が入ってきても彼女は現れない。


俺は直感に働かされて席を立った。

先生が呼び止めるのも無視して俺の足はただ屋上を目指した。

屋上の扉を開くと彼女はそこにいた。

でも、彼女と俺はフェンスで隔てられていてまるで別世界にいるようだった。


「やっぱわたし死ぬね。」

今まで見たことのないような笑顔で彼女が手を離したのと俺がフェンスを飛び越えたのはほぼ同時だった。


ガシャン、とフェンスが軋む。

頭のなかで、ああ腕がもげそう。なんてのんきに考えてみる。


「離して?」

彼女は至って冷静だったけれど、俺のほうが自分でも驚くほど冷静だった。


「わかった」

俺はそのままフェンスを掴んでいたほうの手を離した。




目を覚ますと保健室にいた。

そのまま首を回転させると幸村がそこで笑っていた。


「校庭の木のおかげで俺たち二人とも死ねなかったね」


ああ。あの木の上に落ちたのか。

余程運が悪かったようで、目立った外傷も見当たらない。


「なんで屋上に?」

窓の外を眺めていた幸村にそう問えば、

「ん?ただ俺はお前の自殺ごっこに付き合おうと思っただけだよ」


たまにこの人のことを病気なんじゃないかと疑うことがある。だって彼には未来がある。

それなのにわたしと飛び降りるなんて大概もいいとこだ。


「次にまた飛び降りるときはちゃんと俺のことも誘ってね」

けれど何だろう。

そう笑った彼のまわりだけ、色と音がある気がした。


end


2013.1.16

透明アンサーを聴いて衝動書きした話。
 

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