short

□choose me
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ここは昼休みの三年B組。

こちらを指差しひそひそと周りが話す声が聞こえる。

まぁ無理もない。原因はわたしが今とても変な状況に置かれていることにあるのだから。


「ねえねえちょっと。なにしてんの?」

おおげさに眉を潜めて目と鼻の先にいる彼に文句を言う。

けれど馬鹿なそいつ、丸井ブン太は文句だとはわかっていないようでわたしを抱きしめる手にさらに力を入れた。


「あのさ、わたし聞いてるんだけど。なんでわたし、ブン太のひざに乗っかってるわけ?」

「んー?知らね。彼女だからじゃねぇの?」

…っんとにあんたってやつは。

と、まぁそんなことよりこの体勢をどうにかしたい。

何気に恥ずかしいのだ。

股がりかたが軽くエロいし。


「ブン太、ここどこかわかる?」

「教室だろぃ。お前バカにしてんの?」

「……バカにしたくもなるわ。なんでこんな人の多いところでこういうことすんの。理解できない」


ふーん。とつまらなそうな顔をしたブン太はそのままわたしに口づけた。


「はっ!?」

目を見開いて無言の抗議をするも、ブン太はただ楽しそうに笑った。


なんとか抜け出そうともがいている途中でわたしたちに声がかかる。


「あれ?なにブン太となまえって別れたんじゃないのー?」

にこやかに意味不明なことを言ったのは隣のクラスの幸村だ。

「なにそれ幸村どーゆこと」

一度もがくのをやめ、幸村を見上げると待ってましたとばかりに彼は微笑んだ。


「だってブン太、昨日うちのクラスのなんとかさんとキスしてたよね?」

わたしの身体の半分が固まった。

ブン太を見ると「ちょ、あれは違っ…!」なんて焦っていた。

残りのもう半分の身体が固まるのがわかる。


「ふうん。なるほど。昨日はもう一人の、いや何人目かの彼女とキスしたから今日はわたしってわけ」

「…おい、なまえ!だから違えって!」

皮肉なことに、いま彼の膝から降りることはとても簡単だった。


「わたしはその一人なんて絶対にごめんだから。さようなら」

ブン太に思いっきり微笑みかけてわたしは彼に背を向けた。



それからわたしは完全なるシカトを続けた。

ブン太と別れたことはたちまち広まって。


「なまえ…ブン太くんと別れたせいであんたに悪い虫がつかないかわたしは心配よ」

友達がそういった瞬間、教室のドアのところに男子が二人現れた。


「あのさー!みょうじさんいるー?」

わたしが席を立つと友達は呆れ顔でわたしを見送った。


「なぁなぁ俺たちと映画いかねー?ずっとみょうじさんと仲良くしたかったんだよねえ」

あんまりこういうの行きたくないなあ、なんて思っていると廊下にブン太が見えた。

わたしたちのほうを見ている。

「映画いいよ。行こ」

わたしが笑顔で言うと男子たちは嬉しそうに笑った。

そしてそのままブン太のほうは振り返らず教室に戻った。



そしてその週末。

例の男子たちと映画にいくために家を出た瞬間だった。

携帯がバイブして着信を知らせた。

電話してきたのはどうやら柳らしい。


「んー?どうかしたの蓮二?」

『あぁ。だが詳しく話している時間はない。丸井が交通事故で………今すぐ病院に来てくれ…っ!』

「は?」

身体中の血が凍りついたような気がした。


嘘だ嘘だ嘘だっ…!

もうなにがなんだかよくわからなくて約束も忘れてひたすら病院に走った。


「やだっ…ブン太…!」

病室についたときには既に頬を涙が伝っていて。

上半身を起こしてへらへら笑っているブン太を見てさらに涙が止まらなくなった。


「おう、なまえ。本当に来てくれたんだな」

頬っぺたに貼ってある大きなガーゼが見慣れなくてなんだか悲しくなった。

もう別れたはずなのにわたしはこんなにもブン太の身を案じてしまうんだ。


「ブン…太?大丈夫なの?」

「ん、ちょっとフラっとしちゃってさ。車に轢かれちった」

「轢かれちったじゃないわよっ!なんでそんなフラフラするのよ馬鹿…!」


そしたらブン太は困ったように笑った。


「だってお前にフラれてからあんま寝れなくて飯も全然うまくねえし…栄養失調だって医者が言ってた」

「……なんだそれ」


寝れなくなるほど、ご飯が喉を通らなくなるほどわたしの存在は大きいって言いたいの?


「じゃあなんで浮気なんかしてんのよ」

「…だから誤解だって。その子はなんか急に告白してきてそのままキスしてきて…すぐ突き飛ばしたけど幸村君が余計なこと言うし…」


まあなんとなくそんなようなことだとは思ったけど。


「だとしてもキスされたブン太が悪い」

「…ごめん」

うつむいたブン太にそっと近づいた。


「その子よりももっとずっと甘くて深いキスしてくれるなら許してあげてもいい」

「ほんと?」


今回だけだからね、って笑うとブン太の手がわたしの頬を撫でた。

そのまま顔が近づいてゆっくりとお互いの唇が触れる。

ブン太の舌がわたしの歯をなぞり入ってきて何度も角度を変えて口づけられた。

気づけば静かな病室にはわたしの息遣いだけが響いていた。


「…本当にお前だけだから。だからお前もこないだのやつらと出かけるのはやめろよ…」

「うん…今日はブン太と一緒にいる」


そうしてまた何度目かわからないキスをした。




「えー復縁?つっまんないのぉ。なまえは俺がもらおうと思ったのに」

ブン太が退院した次の日、またブン太がわたしをひざに乗せているのを見た幸村がぷうっと頬を膨らませた。


「幸村がそんなことしても全然かわいくないから」

「なあなあ、」


突然ぎゅっと腰を引き寄せられてブン太の肩に手をつくとそのままキスされた。

ただ、それはこないだとは違って甘くて深いもの。


「ちえっ、俺も彼女つくろっかなあ」

なんて言って幸村が教室からでていくまでわたしたちはずっとキスをし続けた。


「……つうかお前が堂々としてると俺が恥ずかしくなってくる」

「へえ、いいこと聞いた」


顔が真っ赤なブン太のおでこにもう一度口づけてやった。


end
 

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