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□花より団子
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ぷーっぷーっ


「ねぇ…朝からガムなんか食べて平気なの?」


ぷーっぷーっ

「大丈夫だろぃ。つかコレなしじゃ1日もたねー」


今、わたしの隣を歩いている彼、丸井ブン太はご覧の通りお菓子にしか興味がない。


だから幼馴染みのまま小さい頃からなにも進展してない。

わたしはずっと好きなのに。



「はい、今日は寝坊したからこれで我慢して」

「うおーい!寝坊してマフィンかよ!?さすがだな」


わたしはほぼ毎日、彼にお菓子を作ってあげる。

幼馴染みの特権、ってやつだろうか。


「なまえの菓子があれば全国はヨユーだな!」

「ははっ…おおげさな」


毎日一緒に登校するのだって幼馴染みだから。


本当に幼馴染みってだけ。




「今日さ、先に帰っててくれよぃ!ちょっくら用事あっから!」

最近、こういうことが増えた。

誰かと…付き合ってたりするんじゃないか、って思うようになった。



「ブンちゃん、モテるしね」

現にわたしだって惚れてる。

彼女のひとりくらい居たっておかしくない。


しばらく一人で帰って、あることに気づいた。


「数学の教科書…っ!」

いつもなら忘れ物なんて取りに行かないが、ちょうど宿題を指名されることになっていた。

わたしは急いで学校に戻った。



廊下に人影はなかった。

夕焼けが窓から差し込む。


「B組…っと」

ガラガラ、とドアを開くと、


「え…?」


ブン太がいて、

隣のクラスの子がいて、

二人の唇が重なってて、


「ご…ごめんっ!!!」

勢いよくドアを閉めた。

キスしているときブン太と目があった。





こんなにつらいなんて、
喜ぶべきなのに、
ブン太に彼女ができて、
二人は幸せで、
ブン太が幸せならわたしだって幸せで、



でも涙は止まってくれなかった。




家につくと、階段を一気にかけあがって部屋に飛び込んだ。


「もー…止まってよっ、」

少しして涙が止まりかけたとき、下からお母さんの声がした。


「みずきー?お隣のブン太くんが来てるわよー!」

なんでわたしの家に来るのかわからない。


「もう寝たって言っといて…」

お母さんは少し首をかしげて玄関へ向かった。


ベッドに寝転んで考えた。


ブン太に彼女ができた。

つまり、もう一緒に登下校することはなくなる。

もう彼のためにお菓子をつくることも、試合のたびに応援にいったり、隣の家のよしみで泊まったり、部屋にあそびにいったりすることも…


「おいっ!」

窓を見て驚いた。


「やっぱ寝てねーし!つか、いつも窓からはいってんじゃん、なんでそんな驚いてんだよぃ…」


ブンちゃんは少しすねた様子で近づいてくる。


「だめっ!」

そう叫んで後ずさるとブンちゃんはさらに顔をしかめた。


「だめとか意味わかんね。つか今日、夜にクッキー持って俺の部屋来る約束だろ」

「だって…ブンちゃん彼女いるのに部屋なんか入れるわけない!彼女の気持ちとか、わたしの気持ちとか考えてよ…っ!!!!」


怒鳴るつもりなんてなかった。
でもどうしようもなくて。



「は?彼女!?」

でも返ってきたのはバカみたいに口をポカーンと開けたブンちゃんの顔だった。


「なにその顔。どうせバカにしてんでしょ」


また泣きそうになった。

でも必死で唇を噛み締めて押し殺して。


「ちょっちょっ、ちょっと待て!俺にいつ彼女ができたって?」

「今日、キスしたのみたもん!ごまかそうとするなんて最低…っ!」


するとブンちゃんはあぁ…と目線を落とした。


「あの子は…フッた」

「は!?」


今度はわたしがアホみたいな声をあげた。


「いや…今日、呼び出されて、ごめん、って言ったらいきなりキスしてきて…」

「まっ、まさか…」


そこにお前が来たわけよ、とブンちゃんは頷いた。



ってことは、

わたし、今まで誤解して…た?


「うそっ、やだ…ごめんなさいっ!」


彼の顔なんて見れなくてベッドに突っ伏した。

いまなら恥ずかしさで死ねる。



「まぁ、誤解招いても仕方ねぇ行動だよな、ごめん」

ブンちゃんがそっと近づいたような気がした。


「お前…泣いたのか?」

「な…泣いてない」


ぎゅっ

わたしの体にブン太の体温が触れた。


「ブンちゃん!?な、何して…」

「俺ってさ、鈍感?」


その質問に、つい吹き出してしまった。


「わっ!笑うなよ!」

「ブンちゃんはめっちゃ鈍感だよ…っ!」


肩を震わせるわたしに彼は薄く笑った。


「でもさ、お前も相当鈍感だぜ」

「……え」


抱きしめる腕にさらに力が入ったのがわかった。


「俺…小せぇ頃からずっとお前しか想ったことねぇつーの」


体が全く動かなかった。


「うそ、信じられない…」


わたし、なにやってるんだろう。

自分ばっかブンちゃんのこと好きとか言って彼の想いに全く気づけてなかった。



「だからさ、もう軽々しく俺の部屋に来たりすんじゃねえよぃ」

「なんで…?」


そんなの決まってんじゃん、ってつぶやきと、今度は天井が見えた。


「いつ俺が自制効かなくなって襲うかわかんねえもん」


天才的?といわんばかりの顔につい笑みがこぼれた。



「てかお前の返事聞いてないんだけど」

「決まってんじゃん、そんなの」








「大好きだよ」



ずっとしたかったキスはグリーンアップルの味がした。



end
 

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