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□嘘と記憶
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「やっぱりカッコいいよね!!クラスでダントツ一番だよ!!」

「いいなぁ、なまえは!!あんなカッコいい人と幼なじみだなんてさっ」


こういうとき、いつも私に話がふられる。


「うーん…そんなにいいもんじゃないけどね」

叶わない片想い、ってのも。



「なまえは宍戸くんのこと、好きなんだよね!?」

「……そんなわけないじゃん、亮はただの幼なじみだよ」


嘘つくのはあんま得意じゃないんだけど、

この件に関してはもうすっかり嘘も言いなれてる。



「なまえと宍戸くんなら仕方ないか、ってなるのにー!!あ、噂をすれば!!」

ドアの近くに見慣れたラケットバックが見えた。


「おーいなまえ、帰るぞ!」

「はぁい」


今時、恋人でもないのに男女一緒に帰るなんて珍しいからよく勘違いされる。

家が隣で帰るところが同じだからっていうのが理由なんだけど。




「…今日、なんか嫌なことあったのか?」

何もしゃべらない私に優しく声をかけてくれる彼。


どうしようもなく好きで、どうしようもなく胸が苦しくなった。


「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」

「あぁ…なんかあったら言えよ、なんでも相談に乗るぜ」


なんで幼なじみなんだろう。

一番近いようで一番遠いよ…

なんて思って、フラフラ歩いていた私がバカだった。


「あっ危ねぇっ!!」

体を強く押され、倒れた私の横をトラックが通りすぎた。


「ごめんっ…ありがとう……亮?」

近くに倒れた彼に駆け寄る。

目を開けない。

「ちょっ、亮っ!!目開けてよっ…」

しばらくするとゆっくりと目が開いた。


「…よかった…亮、」

彼は目を覚ました。

でも首を少し傾けている。何かがおかしい。


そして彼は、



「……誰、だ?」



…え?

「亮、何言って…」

「すまねぇ、思い出せないんだ…」


破滅の言葉を、彼は吐いた。







「えー、軽い記憶障害ですね…」

医師は至って冷静だった。

それがかえって不安で、


「治るんですか!?」

多少、怒鳴ってしまった。


医師は少し考えてから、


「…それが、非常に言いにくいのですが…彼が忘れているのはあなたの記憶だけ、なんです」


…え?



「んぅ…っ」

その時、後ろから声がした。

彼が目を覚ましたのだ。


「では、お話はまたのちほど…」

医師は気を使って部屋を出ていった。


「亮…おはよう」

「…おはよう、」


どこから見ても亮なのに…


「ごめん、思い出せなくて…」


私のことは覚えてないんだよね。


「別に平気…っ、亮が悪い訳じゃないしっ」

「…平気なら、何で泣くんだよ…無理しないでくれ」


気づかないうちに溜めていたものが溢れてきていた。


「ごめんっ…泣くつもりじゃっ…」

「…泣けよ、俺のせいだ、俺が責任とって見ててやるから…」


どこまでも優しい言葉にまた涙が溢れて、


亮の優しさに甘えて私は泣いた。



「落ち着いたか?」

「…うん、ありがとう」


沈黙が流れる。

私からは何も切り出すことがないので亮から何か言われるのをじっと待った。


「…訊きてぇことがあるんだが」


ようやく会話が再開したのは沈黙が始まってから10分後。


「まず、名前を教えてくれないか?」

「みょうじ、なまえ。亮はなまえって呼んでたよ」

じゃぁ、なまえ。

と、改めて亮は、私にとってはとても大きな質問をした。


「俺とお前は、恋人だったのか?」

違うよ、と即座に答えられなかった。


「えっと…」


悪魔の囁きが耳元で聞こえた。

最低最悪な囁きが。


「…そうだよ、私と亮は幼なじみで付き合ってる…っ」


何も知らない彼は、ニコリと笑った。

今まで見たことないような爽やかな笑みは私の心に深く刺さった。


「やっぱそうか!!そんな感じがしてたんだ。俺のためにここまでしてくれるんだもんな」

一呼吸置いて彼は言った。


「ありがとう、なまえ」

私にとっては一番聞きたくない単語だった。








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2に続きます。
 

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