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□一歩
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深々と雪が舞っている。

部屋は静かだった。


幼馴染みであるなまえが家にやって来てからどのくらいの時間が経ったであろうか。


「明日クリスマスだな」

「…あ、忘れてた」

女子高生のくせにクリスマスを忘れるしょうがなさすぎる彼女にため息を浴びせる。


「今日はイブだね、素敵だね、くらい言えよな」

「んなんいちいち覚えてらんないよ、ブンちゃんの誕生日すら怪しい」

「最低だな、オイ」


家には現在、二人しかいなかった。

ブン太の家族は出掛けているらしい。



「あーぁ…」

そうつぶやいた彼女は実にラフな格好をしていた。


今更、おめかしして家に上がるような関係でもない。



「今日はどーすんの?」

「あたしんちも親いないんだよね、泊まってく」



二人の距離は自然に近づいていく。



どこからともなくお互いの唇が触れた。


「ん、…っ」

「……ン、なまえ」


なまえの手を押さえつけたまま、服に手を伸ばす。


「ゃ…ブン、ちゃ」

反抗の言葉は何も言わせてやりはしない。


というか、激しく抵抗しないってことは流されても別にいいと言うことだ。



なまえと恋仲なのかはよくわからない。


お互いに好き、と伝えたことはない。


キスをはじめとし、身体を重ねるようになったのは去年からだった気がする。



最初は本当にただの幼なじみだった。


全ては俺がけしかけた。
なまえはただ流された。

そんな関係が、もうかれこれ一年は続いている。



「ぁン…っ…う、」

「まだ二本しか入ってないんだけど」


「うっさい…ッ」


こうして今日も、


君に溺れる。




「…んじゃ、いくぜ」

「きょ、は…入れないで」



弱々しい声で彼女は要求した。


「なんで?」

当然のことながらブン太的には不本意である。


ここまできてやめろというのか。



「今日は痛いのはやだ…」

その言葉に、ある疑問が生じてしまった。



「じゃぁさ、何でお前は俺とこんなことしてるわけ」


痛いのが嫌ならこんなことやめればいい。


拒否すればいい。


「何で拒否んねーの?」


そしたらなまえは泣きそうな顔になった。



「何でだと思う?」


その言葉は俺の中に突き刺さったような気がした。



「…ブンちゃんてさ、本当に何もわかってないよね」


「……」


「わたしがなんで抵抗しないかわかってないよね?」


すっかり黙ってしまった俺に、なまえは笑った。

でも、同時に泣いてた。



「あたし…やっぱ今日は帰る…」

「え、ちょっ…」


なまえは早急に服を着直して俺の部屋から出ていった。


「…んだよ、意味わかんねーし…」


そういって俺も気を紛らわしに外に出た。




町を歩いているとすれ違うのはカップルばかり。


自然にため息もこぼれるというものだ。



「わぁ!!!くれるの?ありがとうっ!!」

目をやればカップルがプレゼント交換をしていた。

彼氏が彼女にネックレスをあげている。


「ネックレスねぇ…」

プレゼントはお菓子だろ、
とか思いながら店のショーケースをふっと見た。


「…これ」


目に入ったのは淡いピンクのネックレス。


「なまえに似合いそう…」


下の方に目をやると…


「げっ!!5000円かよ!?」

手が出せないわけではないがちょっと高すぎる。


「…却下だな、こりゃ」

諦めて背を向けたその時。


「わー!これ可愛い!」

「私、買っちゃおっかな」

女子高生とおぼしき集団があのネックレスを指差していた。


俺は衝動的に動いていた。





「か、買ってしまった…」


手には可愛くラッピングされた袋。


「どんな顔で渡すんだよ」


今は軽く喧嘩してんだ。

しかも俺…あいつの彼氏でもなんでもねぇよな。

なんでクリスマスプレゼントとか買っちゃってんだ。


「…俺、意味わかんね」


ため息をはいてから、俺はふらふらと家に戻った。





夜が明けて今日はクリスマス。

幸村くんの意向で部活は
OFFになった。

でも、俺はどっちかってーと部活やってたほうが楽だった。


「はぁ…」

まだ例のネックレスは渡せてない。


「うじうじしたってなんも変わんねぇ!よし!」


俺は覚悟を決めて、なまえの家の窓に、足をかけた。



なまえの部屋には誰もいなかった。

明かりがついているのは一階。


そろそろと階段を降りていくと、リビングに彼女はいた。

ソファにちょこんと体育座りをしてうつ向いている。



彼女に近づこうとすると、机に置いてあるものが目に入った。


俺はそれを見て、ひどく驚いた。


「こ、これ…」

そこにはケーキが置いてあった。


大好きな生クリームがたくさん使われている大好物のホールケーキ。

しかも、真ん中のチョコレートプレートには、


『ブンちゃん、好きだよ』

と、なまえの字で書かれていた。


俺は思わずソファにうずくまっているなまえを抱きしめた。


「えっ!?ブンちゃ…っ!?」

「ごめんっ!俺…無神経なこと言っちまって」


なまえの手が優しく俺の背中に回る。


「これ…渡したくて」

ネックレスを彼女の首にかける。

なまえは目を見開いて俺を見つめた。


「これっ…!」

「俺もお前が好きだった。やめたいと思ってた、あんな身体だけの関係なんて」


でも言葉が見つからなくて…


「情けなくて…ごめんっ」

「ううん。ブンちゃんは…っ、いつだってあたしの1番だから」


久しぶりに見た彼女の笑顔はとびっきり綺麗だった。




「…じゃぁ、新たな一歩、踏み出しとくか?」

押し倒されたのに、彼女は動揺のひとつも見せず、また微笑んだ。


「恋人として…ね」




end
 

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