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□俺様に酔いな。
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「あーとーべ!!あーとーべ!!」

皆が俺様の美技に酔っている。

「きゃー!跡部くーん」

皆が俺様に酔っている。



なのに何でアイツは俺を見ない?


「おい、なまえ!!」

「おー、景吾。どした?」


どした?じゃねーよ。
俺はいま、汗かいたんだよ。

「俺様がタオルをご所望だぜ?」

「は?知らないよ、そんなん。てかタオルなら後ろの女の子たちがいっぱい持ってんじゃん」


俺様がわざわざベンチまで来てやってんのにその態度かよ。

「いいから、てめーのタオルよこせよ」

「えー…マネージャーだって汗かくんだからね」


なまえはしふしぶと言った様子でタオルを渡した。


なまえの匂いがする。

「お前も…ちゃんと俺の試合見ておけよ」

「あいよ」


書類に目を通しながらの返答にため息を吐いて俺は練習にもどった。



夕方。

わたしは1人残って書類を書いていた。

監督と景吾に提出する大事なものだ。


「よし…とりあえずはこれでOKかな…」

部室に鍵をかけようとすると後ろから声がかかった。



「鍵…閉めんじゃねーよ。俺様がこれから使うんだよ」


振り返ると汗でびっしょりの景吾が立っていた。


「まだいたの?早く帰れば良かったのに…」


景吾はわたしの言葉に顔をしかめる。


「アーン?てめぇが残ったから残ったんだよ」

「ふーん…」



生半可な返事をした瞬間、わたしの体は部室のドアに押し付けられた。


「…いっ、痛」

「お前…なんで俺を見ないんだよ…」


初めて見た、景吾の弱々しい顔。

まゆを寄せ、今にも泣きそうだ。


「俺はずっと…ずっとお前だけを見てきたのに…っ!」



ほら、やっぱり景吾はわかってない。


「わたしだって景吾しか見てないよ…」


それを景吾が気づいていなかっただけ。



「でっ…でもお前っ!」

「いつも俺に目もくれてなかっただろ、って?」

「……っ!」



ばーか、とつぶやいてわたしは笑った。


「気づいたのはつい最近だけどさ。あたし、いつも無意識のうちに景吾の試合ばっかみてる」


あたしが書いた試合の結果っていつも景吾のばかりなんだよね。


「それで気づいたの…」


自分で自覚してなかっただけで、あたしはずっと景吾のことが好きだったんだな、って。




「ほら、もう帰ろうよ。お互いの気持ちもわかったわけだし」


さっきから無言の景吾の肩を叩こうとすると、


「んっ…!?」


突然、手を引っ張られ触れる唇。


「け…いごっ、んぅ!」


深くて長いキス。

キスなんて初めてだって言うのに、彼の舌は容赦なく入ってくる。


「…はぁっ、はぁっ」


やっと離れた唇。

息が荒いあたしに対し、景吾は余裕の表情。


「お前は俺様のものだ」

「わかってるよ…」


そしたら彼はニヤッと笑った。


「俺様に酔いな」



end


(…もうとっくの昔から酔ってるって)
 

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