short

□放送禁止
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sideA



今日、幼馴染とけんかをした。


けんかといっても私が一方的に怒鳴られただけ。


理由は不明。

だから私は悪くない。



彼はもとから喜怒哀楽が激しい人だった。


幼馴染の私は誰よりも彼を知っているつもりだが、その私でさえ、ときどき不明な点がある。


「もう!謙也ってばホントあり得へんし!!!」

「まぁまぁ…悪いのは明らか謙也やけど謙也も謙也なりに理由があったんちゃうか?」


今、私のクラスでもあり、謙也のクラスでもある3年2組で白石に愚痴を聞いてもらってる。


「はぁ…第一、謝らへんてどういうこっちゃ!」


彼は今、放送委員会の仕事中。


でも放送することもあまりないし絶対暇してる。

というところもムカつく。


「うーん…謙也はどう思てんねんのやろなぁ」


そういって白石は天井を仰いだ。






sideB


「はぁ…」

俺は今、絶賛後悔中やった。


彼女に理不尽に怒鳴ってしまった。




あり得へんわ、俺。

こういうやつを最低、っていうんや。



アイツは昨日、サッカー部の結構イケメンなやつから告白されていた。


アイツは振ったらしいけど、俺は白石にその話聞くまで何も知らんかったんや。



それで無性に腹が立って…

彼女に怒鳴ってしまった。



アイツの彼氏でもない俺が何やねん。

ただの幼馴染やんか。



考えれば考えるほど情けない気持ちでいっぱいになった。





コンコンコン




ふと、放送室のドアがノックされた。


「謙也さーん、おりますか?」


財前やった。



「お前…んなとこきてなにしとんねん」

「え?なまえさんと喧嘩した言うからからかいに?」


ホンマに最悪な後輩や。


「ウソやって。いやぁー謙也さん…どうせまだ気づいとらんのかと思て」

「なんのこっちゃ?」



財前はやっぱり、とお手上げのポーズ。



「なに、ってなまえさんのことに決まっとるやないですか」


「なまえについて気づいてないことて何やねん…」



まだわからんのですか!?

と、財前は本当に呆れたような顔をする。


何やねん、その目。



「もういいっすわ。永遠に無自覚はこっちがイラつくんで、俺が言います」


一呼吸置いて、やつは言った。





「謙也さんはなまえさんのことが好きなんです」



……ん?

え、なに?



好き……?



「は?俺が…アイツを好き…?」






ぼっ





急に顔が熱くなった。




そうか。

俺はなまえが好きやったんか。




「財前に言われて気づくなんてどこまでも情けな…」


「ほら。気づいたなら行動せんと。彼女、帰っちゃいますよ」


「えっ…どないしよ!?今から探すんわ無理やし…」




ふと、目に入った物があった。


「これやっ!!!!」








sideA




「あーあ…謙也め。もう謝ったって許さへんし…」



そんなことをブツブツ言いながら私は靴をはきかえていた。


そのとき。



ピーンポーンパーンポーン



と、お馴染みの放送。



『生徒の呼び出しやっ!』

謙也の声が校内に響く。


なんでこないなときに呼び出しやねん。

しかもよりによって謙也の声で。



『3年2組…』

うちのクラスやん。

『みょうじ…なまえ!」



は…?



下駄箱にいた生徒の視線が一斉に私に向く。


「えぇっ!?なんで!?」


混乱する私に追い討ちをかけるべく、謙也の声は続けた。


『5分以内に来ないと…あとでキスすんでー!』


ブチッと放送が切れた。



私の顔はもうすでに真っ赤で私の中でも何かが切れていた。


「なに言うてんや、こんのドアホ謙也ぁああーっ!」


私は猛烈なスピードで放送室まで走った。



バタンッ



勢いよく部屋に入ると彼は椅子に座っていた。


「おう!きたきた」

「おう!きたきた、やないわっ!!!!」



謙也は少し笑うと頭を下げてきた。


「ホンマにすまんかった」

「え…?」



少し驚いた。

ここまで潔く謝るとは思ってなかったから。



「俺…お前が昨日、サッカー部のやつに告白されてなんやめっちゃ悔しくて」



悔しい…?


「俺もな、ついさっきやっと気づいたんやけど…」






俺はお前のことが好き。





彼は確かにそう言った。






驚いた。

謙也が私のことを?

好きだって言った?



「う、うそぉ…っ」

「うそやないって」

謙也は今までにないくらい優しく笑った。




私は堪らなくて彼の胸に飛び込んだ。


「あたしも謙也が好きやってん…っ」



そしたら彼はあたしの頭を撫でた。



「じゃぁ仲直りやな」



ちゅっ



おでこにされたキスは、すごく優しかった。











ブチッ




なんだか嫌な音がして振り返ると、財前がにんまり笑っていた。



「先輩ら、ホントあほ」

「ま、まさか…」



隣の謙也を見れば、案の定、顔が引きつっていた。



「今の告白、校内放送で全校生徒にもろバレっすわ」


「うそおおおおぉぉ!?」





放送禁止。


end
 

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