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□意図的シエスタ
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氷帝学園の屋上は芝がひいてある。

わたしは跡部に頼まれて部活に出席しないらしいジローを叩き起こしに来たのだが。

ジローがあまりにも気持ちよさそうに寝ているもんだからなかなか起こせずにいた。

跡部も人を見る目がない。

だからこうしてもう30分はジローの隣に座ってあくびを繰り返している。




「ねえねえ。夢に出てきた異性って自分に好意を持ってる人なんだって」


わたしはジローを見て少なからず驚いた。

まさか起きているなんて思わなかったし、目を開けないで喋り始めるなんてずるい。

でもジローはそんなこと知るわけもなく、目を閉じたまま口だけがまた動いた。


「俺の夢にはなまえが出てきたよお」


飲んでいたジュースを吹き出しそうになった。

いや、若干吹き出した。


「な、なにを…」

「ははっ、なまえってほんと面白い」


けらけらとジローが芝生に転げて、わたしは今日三度目くらいのため息を吐いた。


「ジローと一緒にいると早死にしそう」

「俺、心臓に悪いからね」


なにを根拠に言ってるんだかよくわからないけど間違ってはいない。


ほら、また。

ジローはそのままころころと回転してわたしのひざに頭を乗っけた。

髪の毛が太ももを撫でて何だかくすぐったい。


「全く…眠れる森の王子様ってか」

「眠れる森の王子様はお姫様のキスで目覚めるんだけどなあー」


そういってジローは少し口をとがらせる。

キスを待ってるのか知らないけどしてやるわけがない。


「彼氏じゃないやつにキスなんてしませんー」

「へえ、俺だったら彼女じゃなくても好きな子にならしちゃうけど」

挑戦的な瞳。
こいつは何が言いたいんだ。


「あ、そういえば。わたし跡部に頼まれてあんたを起こしに来てるんだけど」

「えー、そうなの。何だか寂C〜」


どうやらジローはわたしの膝枕から退くつもりはないらしい。


「みんなが待ってるよ」

「なまえがちゅーしてくれたら行く」


ジローは一度言ったらなかなか聞かない節がある。

だからと言ってキスをするというのも如何なものか。


「あ、そうか」


わたしはひらめいてジローにそっと顔を近づけた。


「え、マジマジ?やった…」


ちゅ


「えーー!おでこはナシっしょおおお」

でもキスはキスだ。

そう言うとジローはやや不服そうな顔で立ち上がる。


「ねえねえ、なまえ」

「んー?」


振り返ったと同時にふわっと包まれる体。


ジローの細そうでしっかりした体を感じてわたしの心は少なからず脈打った。


「どきどきいってる。俺、期待していいよね」


体がぱっと離れて次に見えたのはジローの太陽みたいな笑顔。


「なまえの夢には俺がでてきてるはずだよ。だって…ねえ?」

それがどういうことなのかわたしの頭はわりとはやく理解した。


「…あんたがこれからちゃんと部活に戻るっていうなら付き合ってあげてもいい」


可愛いげの欠片もない精一杯の言葉だったけどジローは笑って、そっと唇に触れてきた。


「はい、もーらいっ」


まるで全てを計算していたかのような笑顔に、敵わないなとため息混じりに笑ってわたしたちは歩き出した。



end


2013.11.21
 

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