企画

□30000打記念
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「ぶんたー、かえろー」

一年一組に顔を出すと、赤い髪の毛が振り返った。


「ムリ」

「なんでー!?帰るとこほとんど一緒なのに」


するとブン太のまわりにいた男の子たちがにやにやとブン太に言った。


「おまえ、あいじんと帰らなくていーのかよ!」

「ち、ちげえよ!」

「……あいじん、ってなに?」


男の子たちは「しらねー!」と笑って教室から出ていってしまった。


「ほら、はーやーく」

「…しゃーねーな」


わたしが差し出した右手をブン太の左手がつかんだ。




なんていうのは小学生のときの話。

わたしとブン太は幼なじみで仲がよかった、はずなんですけど。



むすーっ


「ねえ、あんたは何をそんなに怒ってんのよ」

「聞いてよ!!ブン太のやつがね!!」


友達はまた丸井か…とため息をついた。


「で?どーしたワケ?」

「高校にはいってから試合見にくんなって言い出して!」

あいつはマンションの隣の部屋に住んでいるから家族ぐるみで仲がよかった。

だからブン太の試合の応援は家族行事だったのに。



「ねえ、それは丸井があんたのこと…」

「……しってるもん!ブン太に嫌われてることくらい!もういい、あんなやつ!」

友達はあんたら二人ともガキだわーって呆れたように肩をすくめた。


放課後、ブン太は部活だろうけどわたしはそんなんお構いなしに下駄箱へ向かった。

そういえば中学のときも、恥ずかしいからもう一緒に登下校したくないって言ってたっけ。

あのときは理由を問いただしたらブン太が折れたけど。


「ん?なまえじゃん」


ぎっく


「ブ…ブン太…」

案の定、部活中だったらしいブン太はユニフォームを着ていて、シューズを取りに来たらしかった。


「あれ今日は先に帰んの?今日なんかあったっけ?」


…よくもそんな白々と!


「いいよもう!ブン太がわたしのこと嫌いなら一緒に帰ったりしないし!ごめんね!気づかなくて!」

「…は?」

「試合だって行きませんよ!大嫌いなわたしなんかが来たら目障りですもんね」

「ちょ、待っ…」

「今までどーもすいませんでした!サヨーナラ!」


ブン太のバカ!バーカバーカ!


家に帰るとカレンダーが目についた。

明日の欄には色ペンで大きく「ブン太の試合」と書かれていた。


「絶対いかないもん」

そうつぶやいてそのままベッドにうつぶせた。




はっと目が覚める。

時計を見たらもう夜の10時をまわっていた。


「よく寝たなあ…」

あまりお腹も空いていなかったのでベランダに出てみる。

6月の風は意外に気持ちがよかった。



「…なまえ、いんのか?」

いきなりのブン太の声に驚いて慌てて部屋に戻ろうとすると、戻んじゃねーぞと言われて飛び上がる。

「…見えてんの?」


ベランダには隣との壁があるから透視!?とかビビってたら、見えてねー、って返ってきてとりあえず安心した。


「お前のしそうなことくらいわかるし…」

「そう、ですか…」


それからしばらく気まずい空気が流れた。

耐えかねて口を開こうとしたとき、


「…話、あっからもうちょいこっち寄って」

予想外に真剣な口調だったから言われた通り、壁にもたれると、あっちもわたしと同じことをしたようだった。


「俺が試合来んなって言ったの怒ってたんなら謝る。だから…やっぱり明日は来いよ」


なんか違う。

こんなのブン太らしくない。


「意味わかんない。ブン太、無理してる」

「別にムリなんてしてねえ!勝手に決めんな!!」


ぶち


「勝手なのはどっち!?中学に入ってから急に冷たくなって…嫌なことがあったんなら、言いたいことがあったんならちゃんと言って!」

「それは!…その…」

「だからもういいって言…」



「…好きだ」


…は?

途端に頭が真っ白になる。

しかしブン太の口は止まらなかった。


「昼間っから嫌いだの大嫌いだの散々勝手なこと言いやがって…小学生のときからずっと好きだっつの!」


なんにも言葉がでなくて、しばらくその場は静かだった。


「なんだよそれ…」


ほんともうわけわかんないよ。


「ブン太がわかんない…っ」

うずくまったら涙まで出てきた。

ブン太はいま、どんな顔してんだろ。


「明日、来て」

「やだよ…っ、来んなって言ったのは…!」


「来てくれるだけでいいから。」


窓がしまる音がして、わたしはしばらくそこで泣いていた。





そして翌朝。

「あんたも早く支度しなさい。応援行くんでしょ」

「行かない。おかーさんたちで行ってきて…」


お母さんは不思議そうな顔をしたけれど、しばらくして家を出ていった。



(…やっぱ来ねえか)

なまえの母さんが来たのにあいつがいないってことはそういうことだ。


「あれ?今日、なまえは来ないんか?」

「ああ…そうみてえ」

仁王はふーんと笑った。


「まあ、嫌われとると思ってた幼なじみにイキナリ告られたら来るわけなか〜」

「は!?」

「ブンちゃんのことならだいたいわかるぜよ。図星じゃろ」

「仁王まじ怖え…」


俺は会場の入口を見た。

けど、見慣れたあいつの姿はない。

結局なまえが来ないまま、試合ははじまった。



今日は絶不調だった。

シングルスででてるから助けてくれるジャッカルもいない。
いつも見に来るなまえもいない。
ゲームカウントは5-6。
あと1ゲームで負ける。

ふと入口に目が向いた。
そこでばっちり目が合う。


ああ、負けられねえと思った。




「わー…ブンちゃん、なまえが来てから調子よくなるとか素直でカワイー」

「うっせえ。別にあいつが来たからがんばったわけじゃねーから」


試合は7-5。苦戦したっスね!なんて赤也に言われてムカついたけど勝ててよかった。


「ブン太」

振り返ると仁王にかわったようになまえがそこにいた。


「今日はごめん。途中からしか来れなくて…」

「本当だっつの。しかも途中からじゃなくて最後から、だろ」


彼女が少しムッとしたのを見て思わず笑った。


「うん、お前はそれでいい。そういうなまえが好き」

「…ばーか。」


俺が笑うと、なまえも照れたように笑った。


「あのね、わたしも好き」

両手をひろげると、あったかいぬくもりがとびこんできた。


end



「…で、お前なんで来ることにしたわけ?」

「仁王から電話きて、ブンちゃんがピンチだから早く来いって」

(あのヤロウ…)

きゅーぴっと仁王。

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