企画

□0214
1ページ/1ページ





本日は2月の丁度ど真ん中。

スケジュール手帳にはピンク色のペンでバレンタインデーと印してある。

しかし、わたしにとってこの日は憂鬱でしかなかった。

ため息を吐き、昨晩作ったチョコレートを鞄につめて通学路へと繰り出した。


わたしには一応、彼氏というやつがいてチョコレートだって作った。

だけどそいつはお菓子好きというのもあってか普段から女子になにやら貢ぎ物をされていることが多い。

それなのにこの世にはバレンタインデーというものがある。

あいつのためと言っているようなもんだ。

当然チョコレートを彼に
渡そうと女子が殺到する。

まあそこまでなら予想はできた。


しかし教室のドアを開けるとそこでは予期せぬ事態が発生していた。


「丸井くーん!好きです!受け取って!」

「わたしも!好き!」

「…わたしのも受け取ってー!」

「押すなって…みんなありがとな!俺もみんな愛してるぜぃ!」


…………は?

開いた口が塞がらない。

なんで彼女でもない子にそんな笑顔で愛してるとか言っちゃってるの。


「あ!なまえ!お前、遅せえって!待ちくたびれたっつーの」

気づいたように彼氏、であるはずの丸井ブン太が近づいてくる。


「はい、チョコレートは?当然くれるんだろぃ?」

「…………ふざけんな」

「は?なに?」


ブン太はよく聞こえなかったみたいで顔を近づけてきたけどそれさえムカついて顔面に一発パンチした。


「…ってえ!なにすんだよ!」

「ブン太のバカ!自分の心に聞け!」


もう怒った。

チャラ男だとは思ってたけどさすがにあり得ない。

1限はサボるつもりで教室を飛び出した。


なにも考えずに走ってついた場所は校舎裏の芝生の上だった。

ここは坂道になっているから校舎からは見えないし、なにより思い出の場所だった。

ここは偶然ブン太とサボることになって恋が芽生えた場所。

告白されたのもここだったっけか。


「あーあ…わたし情けないなあ」

いま思い返せばそこまで怒るようなことでもなかった気がする。

でも今さら教室にもどる気もなかったのでそのまま芝生に寝転がり、目を閉じた。

そのとき。


「お前さあ、サボり魔の俺を差し置いてなに一人でサボってるわけ?」


草を踏みしめる音と聞き慣れた声。

でもわたしはそのまま寝たふりを決め込んだ。

本人を前にすると怒りも再燃してくるというものだ。


「おい、起きろって」

その言葉とともに唇に何かが触れた。

思わず目を開くと目と鼻の先にブン太の顔。


「うわあっ…!?」

「お姫様は王子様のキスで目を覚ますってのは嘘じゃねえみたいだな」


にやっと笑う彼を見てまた無性に悔しくなった。

ほんとに別れてやろうか、なんて考えが浮かんだところでブン太が何かを差し出してきた。


「ほらよ」

「………なによ、これ」


わたしの手には両手で持てるほどの箱がのせられた。


「開けてみりゃわかんじゃねーの」

リボンをほどくと、小さいけれどちゃんとデコレーションしてあるケーキが入っていた。


「こんなのお前にしかつくってやんねーし」

少し顔を赤くしてそっぽを向いた彼が途端にかわいく見えたわたしは本当に単純だと思う。


「これブン太が作ったの?」

「俺の天才的なスキルにかかればこんなの余裕だろぃ」

「……いただきます」

「おう」


そっとケーキを口に近づける。

甘すぎるのが苦手だと言うわたしのためにビターで作ったのだろうか。

ほどよく甘くて本当においしい。


「…まずい」

「…はあ?お前、何いって…」

「甘さが足りないんだけど…早く、仕上げしてよ」


ブン太は呆れたように笑って頷いた。

「…ったく、お前はしょうもねえわがまま野郎だな」


ゆっくりブン太の顔が近づいて唇がわたしのと重ねられた。

深くてどこにも隙間ができないようなキス。

息をしようとしても彼がそれを許してはくれない。


「…んんっ、」


仕上げとばかりにわたしの唇をなめた後、にやっと笑った彼と目が合った。


「誰よりもお前が好き」


あぁ、狡い狡い。

そんなこと言われたら許さざるを得ないじゃないか。


頭の片隅で毒づきながらも彼のことが誰よりも好きな自分がいた。



end


ひなた様からのリクで「ブン太と甘い恋」

バレンタインが近いのでそれに付した話にしました!

ただ、ぜんぜん甘くないですね……すみません。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ