短編
□聞いてほしい
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私は今日、彼氏である花宮くんと一緒に帰っていた。
…でも本当は、彼氏って言っていいのかわからない。
私のことを一度も名前で呼んでくれないし、
逆に私が花宮くんのことを名前で呼ぼうとしたとき、「キモい」と言って断られた。
花宮くん…私のこと好きなのかな…。
「歩くのおせーよ」
花宮くんはけっこう遠くまで進んでいた。
私は花宮くんの隣に駆け寄り、花宮くんの手に触れてみた。
「ねぇ、花宮くんって…私のこと好きなの?」
今までの不安を言葉にした瞬間、涙と不安が一気にあふれてきた。
「…花宮くん、私のこと…ほんとは嫌いなんじゃないのかとか……ずっと気にしてた…っ…名前で呼んでくれないし呼ばせてくれないし……毎日不安ばっかで…っ」
すると、手を力強く握られた。
「あっ…いたいいたいいたい!!!」
「ふはっ、バーカ。何一人で語り始めてんのかと思えばお前の話かよ…つまんねぇ」
次第に手を握る強さが和らいできた。
「はな…、みやく…」
「オレのこと好きっつーぐらいならオレの性格知っとけっつーんだよ」
「…ごめんなさい」
「謝ってんじゃねーよカス。ん、顔貸せ」
花宮くんは私の顔を両手で包み込むようにし、数秒も経たないうちにキスをした。
「好きだ、らら」
「えっ…、今なんて…?」
「言わねぇよ。聞いてねぇららがワリーんだよ」
「…そうだねっ!」
私のことを名前で呼んでくれた。
すごく嬉しくて、また涙があふれてきた。
その涙を、花宮くんはそっと拭ってくれた。