短編

□聞いてほしい
1ページ/2ページ





私は今日、彼氏である花宮くんと一緒に帰っていた。



…でも本当は、彼氏って言っていいのかわからない。



私のことを一度も名前で呼んでくれないし、

逆に私が花宮くんのことを名前で呼ぼうとしたとき、「キモい」と言って断られた。



花宮くん…私のこと好きなのかな…。






「歩くのおせーよ」


花宮くんはけっこう遠くまで進んでいた。






私は花宮くんの隣に駆け寄り、花宮くんの手に触れてみた。




「ねぇ、花宮くんって…私のこと好きなの?」



今までの不安を言葉にした瞬間、涙と不安が一気にあふれてきた。





「…花宮くん、私のこと…ほんとは嫌いなんじゃないのかとか……ずっと気にしてた…っ…名前で呼んでくれないし呼ばせてくれないし……毎日不安ばっかで…っ」






すると、手を力強く握られた。



「あっ…いたいいたいいたい!!!」


「ふはっ、バーカ。何一人で語り始めてんのかと思えばお前の話かよ…つまんねぇ」



次第に手を握る強さが和らいできた。




「はな…、みやく…」


「オレのこと好きっつーぐらいならオレの性格知っとけっつーんだよ」


「…ごめんなさい」


「謝ってんじゃねーよカス。ん、顔貸せ」




花宮くんは私の顔を両手で包み込むようにし、数秒も経たないうちにキスをした。




「好きだ、らら」

「えっ…、今なんて…?」

「言わねぇよ。聞いてねぇららがワリーんだよ」

「…そうだねっ!」







私のことを名前で呼んでくれた。

すごく嬉しくて、また涙があふれてきた。





その涙を、花宮くんはそっと拭ってくれた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ