イナズマイレブン

□出逢いは突然に・・・
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『出会いは突然に・・・』とよく聞いた事があるが、いつもの俺ならそんな事を考えたりもしないだろう。

なのに何故、今になってそんな事が浮かんでくるのだろうか。

俺は不思議な気持ちで仕方なかった。


それは数時間前・・・
  

退屈な授業が終わり、生徒は帰り支度をする者、部活に向かう者で賑わいを見せていた。

そんな俺も、部活に向かう為に用意をしている。

するとそこへ・・・


「鬼道!!部活行こうぜ!!」

元気よく近寄ってきたのは我等、雷門中サッカー部キャプテン円堂守。

彼の一言に鬼道は微笑し「あぁ」と言い、席を立つ。

円堂と部室に向かう途中に豪炎寺や風丸、マネージャーの木野に会い一緒に部室へと向かった。

部室に着きそれぞれ着替えを済ませ、グランドへ向かい、ウォーミングアップを始める。
 

俺も今日の練習内容を円堂や豪炎寺と確認しながら位置に着く。

そして、円堂の一声で練習が始まり指示を出す。

これが俺の日常だ。


しばらくして、マネージャー達からの声で休憩が入り俺達はベンチへと戻った。


そんな時・・・


『秋ちゃん、夏未ちゃん、こんにちは』


知らない女性の声が聞こえた。
皆、不思議に思い声のする方へ目を向けると


「「由美さん!!」」


木野が喜んで女性に飛びつく姿が見えた。


「由美さん、久々ですね、お元気でしたか?」

『えぇ、久々ね。さっき着いたばかりなの、時間も早いから見に来ちゃった。迷惑だったかな?』


「そんな事ないですよ!!ねぇ、夏未さん!!」

「えぇ、お帰りなさい。由美さん」


『ありがとう、ただいま』


木野や雷門は再会を喜びあっているが、俺達は訳が分からなかった。


「秋、夏未、誰なんだ?」


『ごめんなさい。
私は中杉由美と言います。
今イタリアから帰ってきたとこなの。
秋ちゃんとは幼い時からの知り合いで、夏未ちゃんとも・・・似たようなものかな。
時間も早かったから、ちょっと挨拶しにね』


「由美さん、雷門中サッカー部キャプテン円堂守です」


『貴方の事は2人からよく聞いているわ。会えて光栄よ』


「「ちょ、由美さん!!!」」


秋と夏未は真っ赤になり可愛い反応を見せた。


『フフ、貴方が豪炎寺修也君。
エースストライカーの』


「俺を知っているんですか?」


『雑誌を見たの、それに噂も聞いてるわ。天才ストライカー、別名、炎のストライカーさん』


豪炎寺は顔を赤くしながら由美を見つめた。

それを見た由美は微笑し、鬼道へと視線を移す。


『そして貴方があの【天才ゲームメーカー】鬼道有人君』


それを聞いた鬼道も瞬時に由美に視線を向ける。


「俺の事も雑誌で見たのですか?」


『雑誌も見たけど、ある人が自慢げに話してたから・・・』


それだけ言った彼女の顔には、どこか悲しみを隠している様に思えて仕方なかった。


鬼道がそんな事を思っていると・・


「由美さん、ゆっくり見学してて下さいね。皆ー練習再開だぁ!!」


円堂の声で皆グランドへと戻って行った。


練習が再開され、それぞれメニューをこなしていく中、鬼道はベンチにいる彼女を見つめいていた。

ベンチでは、マネージャー達と楽しそうに話している由美を見て今までに感じた事の無い想いに困惑していた。

そこへ、遅れながらも、もぅ1人のマネージャーでもあり俺の妹の春奈が走って来るのが見えた。

「木野先輩!夏未さーん!すみません、遅くなりました!!」

「ううん、大丈夫だよ。それより由美さんが来てるよ!!」

『ただいま、春奈ちゃん』

「由美先輩!!お帰りなさーい!!」

春奈も嬉しそうに由美に抱きつき再会を喜んでいた。

そんなこんなで、時間は過ぎ部活終了時間となった。

片付けを終え、各自は着替えなどを済ませる。

鬼道も部室を後にする、すると前に春奈が見えたので俺は声をかけた。


「春奈」

「あっ、お兄ちゃん、お疲れ様!」

「一緒に帰らないか」

「うん!」


俺達、兄妹は過ごしてきた時間がとても少ない。
だからこんな僅かな時間でも俺にとっては大切な時間だ。


「それにしても由美先輩元気そーで良かった」

「春奈は由美さんと知り合いだったのか?」

「木野先輩や夏未さんに紹介してもらったの。由美先輩はイタリアのクレモナに居る祖父母の下で音楽を習ってたの。
ちなみに高1だよ」

「高校生とは、落ち着いてるから大学生かと思った」

「私も!聞くまでそぅ思ってた」


まさかの高校生とは・・彼女から出るオーラや空気がそうさせているのか・・不思議に思う事は沢山あった。

現にさっきの悲しみが隠れたあの笑顔が・・頭から離れない。

いつもの俺ならそんな他人に興味を示さないのにな。

そんな事を思っていると春奈に呼び戻された。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん!何ボーっとしてるの?もしかして由美先輩の事でも考えてた??」

にやにや笑って言う妹に戸惑いを隠せないでいる俺だが、冷静を装い「違う」と一言返した。

「フフフ、じゃ私こっちだからまた明日ね」

「あぁ。気をつけて帰れ」

春奈と別れた俺はこのまま家へ帰る気分にもなれない為、寄り道をして行く事にした。

向かった先は、俺が帝国から雷門に転校し雷門VS千羽山との試合後に豪炎寺に連れられて来た場所。

稲妻町が一望できるその広場は夕日の光に照らされていた。

鬼道がそんな景色を眺めていると、風に流されるかの様に音色が響いてきた。

辺りを見回しても誰も居ない。

『どこからだ?』と音源を捜すと上のほうから聞えてくるので鬼道は階段を上り始める。

徐々に近づくと先ほど会った由美が一人バイオリンを奏でていた。

その音色に耳を澄ませていると彼女は鬼道の存在に気がついたが演奏を止める事はしなかった。

最後まで演奏しつづけ終えると鬼道は拍手をしながら彼女に近づいた。


『ありがとう。下手な演奏を聴いてくれて』

「いいえ。とても綺麗な音色でした」

『あら、それはお褒めに与り光栄ね』


そう言い合うと2人で笑いあった。


「由美さんは、どうしてここに?」


『ここは私の大好きな場所なの。
私にとって大切な場所だから』


まただ、けど、それが何故なのか俺には分からない。


『鬼道君は、どうしてここに?』

「俺もこの場所が好きなんです。
ここへ来ると大事な事を思い出せる・・そんな場所です。」

『私と同じだね』


「そうですね」


なんとも言えない穏やかな風が流れ2人を包み込んだ。

そんな空気の中、鬼道は気になってる事を聞いた。


「由美さん、今日あの時、『雑誌も見たけど、ある人が自慢げに話してたから・・・』 と言いましたよね。
ある人とは、誰なんですか?」

思わず聞いてしまったと後悔しつつも彼女の顔を見ると由美は顔を苦笑させ・・・

『・・私の好きだった人』

「だった人?」

『この話はまた今度ね、もぅ遅くなるから帰ろうか』

バイオリンを片付け始める由美を見てなんとも言えなくなった鬼道だが・・・


「由美さん携帯、持ってますか?」

『う、うん』

「お借りします」


とっさの事で驚いたが言われた通り鬼道に携帯を渡した。

慣れた手つきでお互いの連絡先を交換した。


「俺の登録したので、いつでも連絡下さい。」

『えっ、うん。分かった、だけど鬼道君も連絡頂戴ね?』

「もちろんです」


そこで2人は別れた。

家に向かう途中で俺はモヤモヤした気持ちで仕方なかった。

彼女の言葉も、何もかもが頭から離れない。

つい連絡先まで勢いで交換してしまったのだから・・・

・・・ここで冒頭の言葉に戻る・・・


【『出会いは突然に・・・』とよく聞いた事がある。いつもの俺ならそんな事を考えたりもしないだろう】

なのに何故、今になってそんな事が浮かんでくるのだろうか。

モヤモヤした気持ちが胸を締め付ける。
だが、そんな思いを留めつつも、だんだんと暗くなる夜空を見つめながら足を速めた。
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